税理士選びのポイントは人柄と専門性
事業承継には民法や会社法の知識も必要

著者:萬 真知子

、荻島 央江

税金の申告や納付にまつわる業務をサポートするのが税理士の役割です。しかしひと口に税金といってもその種類はさまざまで、税理士にはそれぞれ専門分野があります。世の中の大半の税理士が企業の会計や税務を担当していますが、彼らが相続税や贈与税といった資産課税に詳しいとは限らないのです。だからこそ、まずは相続なら相続、承継なら承継に詳しい税理士を探すことが大切です。

資産を評価し、起こりうる問題を分析

では、まずは相続税理士の業務内容と選び方から見ていきましょう。

相続の相談を受けると税理士はまず、相続税がかかるかかからないかの判断をします。どんな資産があるのかヒアリングして評価し、税額の試算をするわけです。しかし、正確な数字を把握しておく必要はありません。預金と株がそれぞれどのぐらい、生命保険はいくら、あとは自宅と不動産が2つといったように、大まかなところまでは伝えられるとよいでしょう。税理士は、資産に加えて家族構成やこれまでのいきさつなどもヒアリングしたうえで、現状では相続時にどんな問題が起こりそうなのか分析し、対策を講じます。

そしていざ相続となった場合のポイントは大きく分けて3つあります。1つめは相続財産の分割。2つめは節税対策。3つめは納税資金作り対策です。例えば、分割については遺言書を作る必要があるとか、節税についてはこの財産は生前贈与したほうがいいといった提案。納税資金についてはこの物件を売って現金化しておこうとか、生命保険にもう一つ加入するといった話も出るでしょう。ここまでが初回の相談で行うこと。

そしてたいていの場合、2回目の相談までに、どんなお手伝いができそうか具体的に示したプレゼン資料と、期間、費用の見積書を作ります。ここまでは無料で対応するところが多いです。そのうえで3カ所ほどの税理士法人や税理士事務所を訪れ、相続対策の提案内容や税理士の人柄を比較検討したうえで、依頼先を決めるといいでしょう。

税理士選びの第一条件は人柄

初回の相談で対策の方向性が出てこないような場合は、その税理士は考えもの。相続の経験が豊富で、法改正や生命保険の新商品など相続関連の情報をアップデートしている税理士であれば、1~2時間である程度の判断がつくものです。

また相談者の気持ちを汲み取ろうとしない税理士もNGです。税理士の選び方のポイントとして提案内容も大事ですが、人柄はそれ以上に重要です。相談者の悩みを受け止めてくれるか。悩みから問題点をあぶりだして、相談者の気持ちにしっくりくるような具体的な対策を講じられるか。これらがポイントとなります。

相続人の間でトラブルが生じたり、不動産の売却が必要だったりすると、税理士以外の専門家の手も必要です。弁護士や不動産会社など、状況に応じて適宜専門家のコーディネートができる税理士であることも選ぶ条件になるでしょう。

いざ依頼するとなると、気になるのは費用。しかし昨今は初回の相談は無料というのが一般的です。家やクルマを買うときには無料で見積もりをとるもの。相続相談もそれと同じです。税理士側にとっても初回の相談というのは「何をお手伝いできるだろうか、どのぐらいの時間と費用がかかるだろうか」と見積もりの情報収集をする時間でもあるのです。

事業承継には民法や会社法の基礎知識も必須

続いて事業承継について見ていきましょう。中小企業白書によると、事業承継に関する知識を得るために経営者が相談する相手は税理士が最も多くなっています。事業会社であれば当然ながら顧問税理士がいて、税務関係で日ごろから接点があるうえ、「事業承継=相続税対策」と考える経営者が少なくないので、税理士が一番身近な相談相手として真っ先に頭に浮かぶのでしょう。

ただ事業承継は、大きく「経営の承継」と「自社株式・事業用資産の承継」の2つの要素で成り立ちます。後者においては、必要な資金を確保する必要があり、会社の財務に与えるインパクトなどを把握しスムーズな承継を進めるには、確かに税理士の能力が必要です。

ただそれは事業承継の一要素であって、すべてではありません。実際、顧問先との間では税金に関連する話だけなく、会社をどう永続的に発展させるか、後継者をどう育成していくか、といった話にも膨らみます。

事業承継は重要な経営課題の一つです。やはり「経営の承継」に関して知識や経験が豊富な税理士に依頼したいところです。事業承継関連の業務を得意とする税理士を選ぶには、どんなところに注目すればいいのでしょうか。

ポイントは以下の3つです。

1つ目は、事業承継を手掛けた経験があり、税法のほか、会社法、民法についても基礎知識があること。事業会社の承継を手掛けてもらう場合、これは絶対条件。この3法を知らないと様々な課題の解決が難しくなります。

「株式の種類にどんなものがあるのか」「株主はどれだけの議決権を持っていると、どういうことが可能なのか」というのは会社法の範疇で、万が一相続が生じたときの対処は民法の世界です。これに税法を加えた3法はそれぞれひもづいているため、全体を把握していないと話にならないというわけです。

事業承継の案件をどれだけ手掛けたことがあるかは直接問い合わせるか、ホームページなどで確認するといいでしょう。

お抱え税理士が1人という時代は終わり

また、どのような方法で税理士資格を取得したかも、判断材料の1つになります。税理士になるためには3パターンあります。(1)税理士試験に合格する、(2)公認会計士の資格を取ることで同時に税理士資格も取得する、(3)国税などの職員として一定年数を務めあげた人が指定の研修を受けて税理士として独立する、の3つです。

一般論ではありますが、それぞれ得手不得手があるように思います。(1)や(3)での資格取得者は税法に詳しい一方、ビジネス全体を見られるかというと、やや目線がそちらにいきにくい。(2)は会社法や民法には詳しいが、税法の知識は(1)や(2)に比べると少ない、といった傾向です。

税理士なら経営がらみのことは何でも分かると思われがちですが、決して万能ではありません。例えば、医師が内科、外科、歯科など各々の診療科に分かれるように、税理士にも得意とする専門領域があります。もはや1社に1人の税理士という時代ではなく、税理士の知見を最大限に活用するためには、必要に応じて税理士を複数抱えて、役割分担させるほうがいいでしょう。

具体的には、既存の顧問税理士には従来の実務を、事業承継に関しては新たに顧問として迎えたもう1人の税理士に任せるという形式です。場合によっては、以前からいた税理士に嫌がられることもあります。ですが、一緒にミーティングに参加してもらい取り組んでいくうちに、最終的には専門領域で手分けをして効率的に事業承継が完了したという結果になることが多いです。

2つ目のポイントは、相続税理士を選ぶときと同様、他の専門家とのネットワークを持っているか否かです。税理士以外の専門家に助けが必要なときに、他の分野の専門家にも広い人脈を持ち、すぐに適切な人を紹介してくれる税理士であることも重要です。

3つ目に、「この人ならこれから先、長く付き合っていける」と思える税理士または税理士法人がいいでしょう。事業承継は1年でパッと終わるものではありません。後継者を誰にするのか。いつ事業承継するのか。後継者にどう株式を集中させていくか。継がない子供たちにどう手当てするか。相続税対策はどうするか……。いずれも、簡単に意思決定できることではありません。税理士はいわば経営者の頭の中を整理して、実行に移す際のサポーター役として、それこそ3年、5年、10年と長年にわたり伴走することになります。

では、こうした3つの条件にかなう税理士または税理士法人を探すには、相続を経験した身近な知り合いから紹介してもらったり、実際に事業承継を経験した周囲の経営者仲間などに、事業承継に関して経験豊富な信頼の置ける税理士または税理士法人を教えてもらったりするのもよいでしょう。また、付き合いのある金融機関などに紹介してもらう、各種セミナーに参加してみるのもいいかもしれません。

取材協力=デロイト トーマツ税理士法人、税理士法人アーク&パートナーズ

著者:萬 真知子、荻島 央江