公式コラム事例から検証!相続の落とし穴
法的な効力がない場合も!?正しい遺言書の残し方
2016.12.12
著者:萬 真知子
「遺言」とは、自分の死後に誰にどんな財産を渡したいのか意思表示をすること。遺言を法律上有効にするには、所定の方式に従った書面を作成する必要があります。これが「遺言書」です。遺言書があれば、原則としてそのとおりに遺産分割が行われ、預貯金をはじめ、株式や不動産といった財産の名義書き換えの手続きも煩雑にならないといわれています。「介護をしてくれた長男のお嫁さんに財産を分けたい」といったように、法定相続人以外の人に財産を残すこともできます。兄弟姉妹間の関係が特別に良好でなくても、遺言書があれば「親の意思だから受け入れよう」と遺産争いが抑えられることもあります。
しかしせっかく遺言書を作成したつもりでも、法的な要件を満たしていないと無効になってしまいます。遺言書にはいくつか種類がありますが、主なものは「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類です。中でもよく利用されるのは自筆証書遺言と公正証書遺言です。

自筆証書遺言は手軽で費用もかからないが……
自筆証書遺言とはその名のとおり、自分で手書きした遺言書です。一人でいつでも作成できて費用がかからないため、とても手軽なのが利点です。ただし自分で作れるだけに「法的な要件を満たしていなくて遺言が無効になる」「内容が曖昧なために異なる解釈を生んで遺産争いのもとになる」などの問題が起こりやすいという難点もあります。遺言書の存在を相続人などに伝えておかないと、発見すらされない恐れもあります。
さらに自筆証書遺言の場合、法的な要件を満たした遺言書を残して相続人もその存在を知っていたとしても、現実の相続の場面では遺言書の内容どおりに遺産分割が行われないことが多々あります。よくあるのが父親が亡くなったときの相続のケース。当主として家族のことを考えて遺言書を作ったつもりなのでしょうが、家族の実状をよくわかっていないケースもあり、財産の分け方が“とんちんかん”な場合が多いのです。そのため残された母親と子どもたちは、一応父親の遺言を尊重はするものの、遺産分割協議を行ったうえで父親の遺志とは異なる分け方をするようです。
相続のプロも勧める公正証書遺言
とはいえ円満に見える家族でも、いざ相続となると争いが起こる可能性はゼロとはいえないため、遺言書を残しておきたいと考える人は少なくないでしょう。また前述のとおり、法定相続人以外に財産を分けたい場合には遺言書は必須です。死後、確実に自分の意思を反映する遺言書を作るにはどうすればいいのでしょう。
そこで検討したいのが、もう一つの遺言作成方法である「公正証書遺言」です。公正証書遺言とは、公証役場というところに出向き、公証人と呼ばれる公正証書作成のプロに依頼して遺言書を作る方法です。自筆証書遺言に比べると手間と費用がかかりますが、それだけの効果はあります。公証人は裁判官、検察官、弁護士などの実務経験を有する法律のプロの中から法務大臣が任命するため、公正証書遺言に法的な不備が生じて無効になることはまずないからです。内容の解釈に関して争いが起きるリスクもほとんどないといわれています。
作成された公正証書遺言は公証役場に保管されます。公証役場とは法務局が管轄する官公庁の一種で、全国に約300カ所あります(最寄りの公証役場を調べるにはこちら)。被相続人からどこの公証役場に保管されているのか知らされていなくても調べればわかるので、自筆証書遺言のように発見されないおそれはありません(ただし相続人が探す努力をしなければ見つかりません)。税理士や弁護士など多くの相続のプロも、遺言書を作るなら異口同音に公正証書遺言を勧めます。
遺言書で遺言執行者を指定する
ただ公証人および公証役場の役割は遺言書の作成と保管であって、相続人が実際に遺言どおりに財産を分けるかどうかまではチェックしません。確実に遺言書に書かれたとおりに財産を分けることを望むなら、遺言書作成の際に遺言執行者も決めておくことをお勧めします。遺言執行者というのは遺言内容を間違いなく実現する役割を担う人のことで、不動産の所有権移転登記、預貯金や株式の名義変更などの手続きを行います。遺言執行者には誰でもなれますが、相続人の中から選ぶと遺言を確実に実現できるかどうか不明です。利害関係のない第三者、一般的には弁護士に依頼します。
では、公正証書遺言を作成し、遺言執行者に弁護士を指定すれば万全なのでしょうか。相続開始後、遺言書の内容に不満を持つ相続人が現れるかもしれません。その際、遺言執行者に異議申し立てをしたくなるかもしれませんが、それは遺言執行者の役割の範囲外です。異議があるなら、各自が弁護士を立てて調整し、話がまとまったら再び遺言執行者に財産の名義書き換えの手続きなどをしてもらいます。ただし遺言について異議申し立てができるのは、遺留分を侵害している場合。それ以外は遺言に従うのが基本となります。
取材協力=税理士 内藤克氏
著者:萬 真知子