公式コラム事例から検証!相続の落とし穴

相続対策に生命保険を上手に活用

2017.01.10

著者:萬 真知子

 相続対策に生命保険が活用できるという話はご存じでしょうか。相続には大きく「納税資金対策」「遺産分割対策」「節税対策」という3つの柱がありますが、生命保険はいずれの場合でも一定の効果が期待できるので活用法を知っておきましょう。

 まずは3つの柱の中でも生命保険の利用がよくある納税資金対策について。相続税の納税は金銭一時納付、つまり現金一括払いが原則です。納税期限は相続開始から10カ月以内なので、その間にお金を用意しなければなりません。ところが相続財産の大半が不動産であったりすると、現金化がなかなか難しいもの。必要な納税資金が用意できない場合には、「延納」(所定の担保を差し入れ、年単位で分割払い)や「物納」(現金の替わりに相続財産の不動産を納める)という方法もありますが、適用の要件が厳しいので、生前から納税資金の準備を考えておいたほうが将来の相続人のためになります。

 手順としては、税理士に相談して相続税を試算のうえ、預貯金など現金化しやすい資産だけでは納税資金が不足しそうだとわかったら、生命保険の活用を検討します。ここでいう生命保険とは基本的に終身保険です。将来、被相続人になる人を被保険者(保険を掛けられる人)にすれば、死亡したときにすぐに死亡保険金が支払われるので、相続税の納税資金にしやすいのです。既に加入している場合は、現状で加入している保険だけでは納税資金が不足しそうなら、追加加入するといいでしょう。

保険金の受取人は配偶者より子どもに

 ただし、終身保険の加入可能年齢には上限があります。70歳以上になると難しくなるので、遅くとも60代のうちに検討する必要があります。保険金の受取人についても要注意です。配偶者にしているケースが多いと思われますが、一次相続だけでなく二次相続まで考えるなら子どもにしましょう。保険金の受取人の変更はいつでもできます。さらに契約者についても注意。通常は相続対策を考える本人(将来、被相続人になる人)が契約者であり、被保険者であるという契約をしていることと思われます。この場合、保険金の受取人に課される税金は下表に示したとおり相続税です(保険金は相続税を支払う財源になる一方で、相続税の対象でもあります)。しかし相続財産が多額で相続税率が高くなりそうな場合には、保険料を子に贈与して子が契約者になるという選択肢もあります。子が受け取る保険金は一時所得となり、相続税の場合より税負担が軽減する場合があるのです。

生命保険なら遺産分割協議を経ずに特定の相続人にお金を渡せる

 次は遺産分割に生命保険(この場合も終身保険)を利用する方法です。生命保険の保険金は民法上の相続財産に当たりません。そのため預貯金や有価証券、不動産などを相続するときに必要となる遺産分割協議から除外されます。結果として、分割という手続きを経ず、他の相続人に知られずに、特定の相続人に保険金の形で財産を渡せるという利点があります。相続財産に含まれないことから、法定相続人以外の人にもお金を残すことも可能です。ただし保険金の受取人にできるのは2親等以内というのが一般的。息子のお嫁さんに面倒をみてもらったから保険金で財産を残したいという場合、お嫁さんは子の配偶者なので1親等となり保険金の受取人に指定できます。甥や姪は3親等となるので、保険金の受取人にするのは難しくなります。保険金の受取人は契約者が申し出ればいつでも変更可能です。

 なお保険金は民法上は相続財産ではないものの、経済的な効果が同じということから税法上は相続財産とみなされ、前述で少し触れたとおり相続税の対象となります。したがって相続税の申告書には記載されることになり、結局は誰がいくら保険金を受け取ったか他の相続人にもわかるのですが、その時には既に保険金を受け取った後ということになります。

非課税枠「500万円×法定相続人の数」を活用

 最後に3つめの節税対策です。生命保険の保険金には相続税上の非課税枠があります。非課税枠は「500万円×法定相続人の数」。受け取った保険金からこの金額を控除でき、その分、相続財産としてカウントされる金額が減ることになります。例えば父親が3000万円の終身保険に加入し、母親と子2人が残された場合、非課税枠は500万円×3人=1500万円なので、相続財産となる保険金額は1500万円となります。なお、保険金を受け取る人が1人であっても、控除は法定相続人の人数分受けられます。生命保険に加入すれば、保険料を支払うことで相続財産を減らしつつ、受け取る時には非課税枠の活用で相続税の負担を減らせるのです。

 以上の3つは相続における生命保険のオーソドックスな活用法ですが、最近では名義預金(*注)を回避するために生命保険が活用するケースが増えているようです。それについてはまた別の機会に取り上げましょう。

 なお、2016年2月以降の日本銀行のマイナス金利政策により、保険料の運用が難しくなり、一部の保険会社では終身保険の販売を停止したり、保険料を引き上げたりしているところが出てきています。相続税対策に生命保険を利用するには環境的に逆風が吹いているといえるかもしれませんが、取り扱っている会社もあるので諦めることはないでしょう。

*注 名義預金 祖父母や親が孫や子のために、生前贈与の“つもり”で預金口座を開設して預金をすること。祖父母や親が通帳や印鑑の管理をしていると、孫や子の名義を借りているだけで、実質的には祖父母や親の預金だとみなされ、将来、相続税が課されるおそれがある。

取材協力=税理士 内藤克氏

著者:萬 真知子