公式コラム事例から検証!相続の落とし穴

非課税で一括贈与できる制度はホントにお得? 有効な生前贈与をするためのポイント

2017.02.06

著者:萬 真知子

 相続税対策には生前贈与が有効。贈与税には年110万円の基礎控除があるから、その範囲内で贈与すれば、子や孫などに贈与税の負担をかけずにお得に相続対策ができる! そう考えて、毎年せっせと子や孫などに110万円以下の贈与をしている、あるいはこれからそうしようと計画中の人もいるでしょう。

 しかし、それは実際に相続が発生し、財産にいくらの相続税がかかりそうなのか、試算したうえでの対策でしょうか。試算せずに「おトクなはず」と先走って生前贈与を始めても、後で「しまった」ということになりかねません。そもそも相続税がかからず、相続税対策としての生前贈与は不要な場合もあります。反対に相続財産が多額だと、年110万円の基礎控除内の贈与ではなかなか対策がはかどらないかもしれません。相続税の試算は税理士に相談するのが確実ですが、まずご自身でざっくりと把握するには、国税庁のサイトの「タックスアンサー(https://www.nta.go.jp/taxanswer/index2.htm)」内にシミュレーションがあるので活用するといいでしょう。

 その結果、相続税対策が必要であれば生前贈与を検討するという手順になります。生前贈与とは「生きている間に配偶者や子、孫などに財産を贈与すること」。生前贈与をして、将来相続税の対象となる財産を減らしておけば、相続税を軽減できるというわけです。

「贈与契約書」など贈与の証拠を残す

生前贈与の最も一般的な方法は「暦年課税」による贈与です。年単位で財産の贈与を行い、贈与を受けた人に贈与税がかかります。贈与税の税率は贈与を受けた金額が大きくなるほど高くなります。ただし、下記の贈与税の計算式を見るとわかるとおり110万円の基礎控除が設けられているため、贈与を受けた額が年間110万円以下であれば贈与税はかかりません(これが冒頭の話です)。贈与税の申告も不要です。

贈与の際には「贈与契約書」を作り、贈与者(贈与をする人)の口座から受贈者(贈与を受ける人)の口座へ振り込むなど、きちんとお金の移動の証拠を残し、通帳や印鑑の管理を受贈者が行っていれば、将来、相続が起きたときに「名義預金」(前回参照)とみなされて相続税を課される心配も少ないでしょう。贈与する金額や時期を毎年少しずつ変えるのもポイントです。

なお、基礎控除額の年110万円は受贈者1人につきの金額です。受贈者が2人いれば年220万円、3人いれば年330万円まで非課税で贈与できるので、受贈者が何人かいれば短期間でそれなりに相続財産を減らす効果が期待できます。ただし、相続発生前3年以内に受けた贈与財産(財産を相続した人が受けた贈与財産)は相続財産に組み込まれてしまうので、早めに着手したほうがいいでしょう。

年110万円の基礎控除の範囲内では相続対策が間に合わないという場合は、非課税にこだわる必要はありません。相続財産の試算をすると現状の相続税率が何%かわかります。贈与をする場合は、贈与税がかかっても相続税率を下回るように贈与額を調整します。このあたりは素人判断では難しいので税理士に相談することをお勧めします。

また、基礎控除後で年間200万円以下の贈与であれば贈与税率は10%です。例えば年120万円の贈与を受けた場合、贈与税額は1万円と少額で済みます。これを活用して、あえて非課税枠の110万円を少し超過した額の贈与を受け、贈与税の申告をして税務署お墨付きの贈与の証拠を残すという考え方もあります。贈与税の申告は、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までに行います。

■贈与税の計算式
贈与税額=((1年間に贈与を受けた財産の合計額)-基礎控除額110万円)×贈与税の税-控除額

教育費や生活費の贈与はそもそも非課税

暦年課税のほかにも贈与の方法はいろいろあります。最近注目されているのは、教育資金や結婚資金などを非課税で一括贈与を受けられる制度。「教育資金の一括贈与」は受贈者1人につき1500万円まで、「結婚・子育て資金の一括贈与」は受贈者1人につき1000万円まで非課税で贈与が受けられます。どちらも父母や祖父母など直系尊属からの贈与が対象で、信託銀行などの金融機関に口座開設をして利用します。

とはいえ「都度贈与」といって、夫婦や親子、兄弟姉妹間など扶養義務者間において、生活費や教育費として必要な都度贈与した財産には贈与税がかからないことになっています。わざわざ上記の一括贈与の制度を利用しなくても、もともと非課税なのです。敢えて利用を検討するとすれば贈与者の余命が短い場合でしょう。大きな金額を一度に非課税で贈与することで、一気に相続財産を減らせるからです。ただし「結婚・子育て資金の一括贈与」の場合は、贈与者が死亡した場合、その時点での残額が相続財産に組み込まれてしまうため、あまり利用する意味はないといえそうです。

マイホームの購入予定があれば住宅取得等資金の贈与が有効

非課税で一括贈与が受けられる制度には「住宅取得等資金の贈与」もあります。マイホームを新築・購入・リフォームするときの資金の贈与を、父母や祖父母から一定額まで非課税で受けられる制度です。住宅資金の贈与は都度贈与には含まれないため、マイホームの購入等の計画があれば利用を検討しましょう。2017年の契約であれば、省エネ等住宅なら1000万円、それ以外の住宅なら700万円まで非課税で贈与が受けられます。

配偶者を対象とした特例もあります。婚姻期間20年以上の夫婦のどちらかが、もう一方に居住用不動産の取得資金の贈与をした場合、基礎控除110万円に加えて最高2000万円まで控除できます。要するに最大2110万円まで非課税で持分の贈与ができるわけです。夫婦それぞれの保有財産のバランスと二次相続への影響を考慮したうえで利用を検討しましょう。

そのほかに相続時精算課税という制度もあります。60歳以上の父母か祖父母が、20歳以上の子か孫を対象に贈与する制度です。非課税枠は2500万円で超過分は一律20%となります。仕組みが複雑なので、利用を検討するときには必ず相続に詳しい税理士に相談しましょう。

いずれの手段を選ぶにせよ、贈与は偏りがないように行うことが重要です。特定の人に集中して贈与すると、いざ相続が起きたときに相続人の間でトラブルになりかねません。配偶者と子が残される一次相続だけでなく、子だけが残される二次相続まで配慮したプランを練るのが得策です。

取材協力=税理士 内藤克氏

著者:萬 真知子