公式コラム事例から検証!相続の落とし穴

相続税大幅減が期待できる「広大地」 税制改正施行前の2017年内に対策を!

2017.03.06

著者:萬 真知子

三大都市圏では500㎡以上、その他は1000㎡以上の土地があれば「広大地」の適用を検討

 相続税の申告の際、財産の評価の中でも不動産、特に土地の評価は難しいといわれています。土地は一般的には路線価に基づいて評価されますが、形状や周囲の環境などに応じて様々な減額措置が設けられています。減額措置の要件に該当する土地であれば評価が下がり、相続税の節税につながります。

 中でも効果が大きいのが「広大地」です。広大地が適用されると土地の評価は最大65%も減額されます。例えば10億円の評価の土地に広大地が適用されると、最大で6億5000万円減額され、評価額は3億5000万円まで圧縮される可能性があります。ところが実際に相続した土地を売却する場合、3億5000万円まで下がらない傾向にあるといいます。なので現行の広大地はかなりお得な制度だといえそうです。

 ではどんな土地に広大地が適用されるのでしょう。広大地とは名称のとおり、その地域における標準的な宅地の面積と比べて著しく広い宅地のこと。三大都市圏(首都圏、近畿圏、中部圏)なら500㎡以上、その他の地域なら1000㎡以上が基準となります。面積が大きい土地は、宅地化して販売するにあたって、公共公益的施設の負担(開発道路の負担が必要になり潰れ地が発生するなど)や、宅地造成工事費、金利負担など、事業リスクに見合う利潤率を考慮するうえでのマイナス要因があるため、相続税評価に減額措置が認められています。

表 広大地の適用でどれだけ評価が下がる?

広大地案件の実績豊富な税理士事務所を選ぶ

 ただし広さの基準を満たしただけでは広大地とはなりません。戸建て住宅地などとして開発を行う際、道路や公園など公共公益的施設用地の負担が必要と認められる土地であることも要件となります。また、大規模工場用地(5万㎡以上)に該当するものや、中高層(3階以上)のマンション敷地用地に適しているものは広大地から除外されます。

 実際にその土地が広大地か否かを判断するのは難しい作業だといわれています。税理士が広大地を適用して相続税の申告をしても、税務署から否認されることもあります。すると土地の評価額が上がって相続税額が増えるうえに延滞税なども発生し、納税者にとって大きなリスクとなります。逆に広大地が適用できる土地なのに見逃してしまう税理士もいるといいます。この場合、通常の土地の評価で申告をするため、納税者は余分な相続税を支払うことになってしまいます。ケースによっては数千万単位、億単位で税額が変わることもあるので、納税者にとっては広大地が適用できるかどうかは大問題です。

 ですから広大地に該当しそうな土地を保有している地主さんなどは、相続に強い税理士の中でも、広大地の適用案件の実績が豊富な税理士事務所に依頼することが大きなポイントとなります。こうした事務所は不動産のプロである不動産鑑定士と連携しています。税務署に広大地であると認めてもらうには、申告の際に広大地の根拠を示した意見書の添付が望ましく、これは不動産のプロである不動産鑑定士の手を借りなければできないことだからです。

税制改正により2018年1月1日以降の相続から広大地の評価の方法が変わる

 土地を保有している人にとって有効な節税策となる広大地ですが、2017年度税制改正により、2018年1月1日以降に発生する相続を対象に、評価の方法が見直される見込みです。現行では上図に示したとおり土地の面積に比例して減額幅が決まっていますが、改正後は土地の形状も評価基準に加わることになっています。というのも冒頭に挙げた10億円の土地の例のように、現行の広大地の評価は実際の土地の価格より大幅に低いケースもあり、実態と乖離が見受けられます。それを是正するために見直しが行われるのです。

 詳細は未定ですが、形状が整った土地などは評価が上がってしまう可能性あります。つまり同じ土地であっても現行よりも相続税の負担が増えるケースが出てきそうだというわけです。おおむね負担が増えると考えておいたほうがいいと指摘する税理士もいます。

改正前の2017年のうちに「相続時精算課税制度」を活用して広大地を贈与

 では改正に際してどのような対策をとればいいのでしょう。評価の見直しが適用されるのは2018年1月1日以降に発生する相続なので、2017年内であれば現行の面積に比例した減額措置が受けられます。そこで検討したいのが「相続時精算課税制度」を利用した広大地の贈与だと、広大地に詳しい税理士は提案します。

 相続がいつ発生するかは誰にもわかりません。しかし生前贈与であればタイミングを選べます。広大地を贈与する際も相続時と同じ評価となり、減額措置が受けられます。しかも相続時精算課税制度であれば2500万円まで非課税で贈与できます。2500万円を超えた部分には一律20%の贈与税がかかりますが、相続時に相続税と精算されます。もし相続時に土地が値上がりしていたとしても、贈与時の低い評価のままで済むので有利に働きます。逆に贈与をしようと思っている土地について将来値下がりが懸念される場合には、相続時精算課税制度の利用は控えたほうがいいでしょう。安くなってから土地を受け継いだほうが税負担は軽減されるはずだからです。

相続税の申告から5年以内なら「更生の請求」で払いすぎの税金を取り戻せる

 なお既に相続税の申告をした人の中には、「相続した土地は広大地だったかも」と思っている人もいるかもしれません。申告から5年以内なら「更正の請求」といって税金の還付手続きが可能です。広大地が適用できることに気付いて更生の請求を行い、数千万円の税金が戻ってきたという事例も見受けられます。広大地に強い税理士事務所を探して検討するといいでしょう。

取材協力=税理士 渡部以光氏

著者:萬 真知子