公式コラム事例から検証!相続の落とし穴

タワーマンションの固定資産税の改正は節税封じの前哨戦!?

2017.04.10

著者:萬 真知子

 近年、富裕層にとって有効な相続税対策として機能してきた「タワーマンション節税」。しかし2017年度の税制改正大綱にはこの動きをやや牽制する改正内容が挙げられています。

 改正内容に入る前に、まずはタワーマンション節税の仕組みをおさらいしておきましょう。相続財産の評価の方法は財産の種類によって異なります。預貯金の場合は額面どおりの評価となり、1億円は1億円のまま相続財産としてカウントされます。一方、不動産は預貯金のように流動性が高くないため、市場価格(実勢価格)よりも低く評価されます。したがって1億円を預貯金のまま持っているよりも不動産に組み換えた方が評価額を下げられ、相続税の負担を減らすことができます。タワーマンション節税もその一つです。

タワーマンションの高層階は資産圧縮効果が大きい

 では不動産はどう評価されるのでしょう。不動産の評価の方法は土地と建物で異なります。土地は一般的に路線価で評価され、目安として実勢価格の7~8割程度となります。建物は固定資産税評価額が適用され、これは実勢価格の6~7割程度です。マンションの場合、土地は敷地面積を各戸の専有面積に応じて按分されるので土地の持分は小さくなります。特にタワーマンションは数百戸から1000戸以上という物件もあるので、一室当たりの土地の持分は非常に小さいものになり、相続税評価額が低く抑えられます。

 建物部分についてはタワーマンションの建物全体の固定資産税評価額が各戸の床面積に応じて按分されます。同じ棟内で専有面積が同じなら、固定資産税評価額は同じというわけです。専有面積が同じなら土地の評価額も同じなので、高層階の部屋でも低層階の部屋でも相続税評価額は同額です。ところが同じ床面積でも実勢価格で見ると、低層階より眺望のよい高層階の方が人気があり高額です。

 例えば80㎡の部屋が高層階で1億円、低層階で7000万円だったとしましょう。仮に相続税評価額が4000万円だとすると、高層階は資産の圧縮効果が1億円-4000万円=6000万円あるのに、低層階だと7000万円-4000万円=3000万円です。高層階を購入したほうがより大きな資産の圧縮効果が期待できるのです。タワーマンションの保有中のランニングコストである固定資産税についても、同じ床面積なら高層階、低層階に関わらず既存の物件では同額です。

固定資産税改正で高層階は増税に

 しかし実勢価格が異なるのに高層階と低層階で税負担や相続税評価額が同額というのは不公平なのではないかということから、2017年度の税制改正の対象となったのが固定資産税です。2018年1月1日以降に引き渡される新築物件を対象に、高さが60メートルを超える居住用超高層建築物、要は20階建て以上のタワーマンションの固定資産税が、中層階を起点に一定の補正率(10を39で除した数=約0.26%)を乗じた金額を加えて、高層階では増税、低層階では減税になります。

 例えば40階建ての物件なら、中層の20階の固定資産税額はこれまでと同じですが、20階から上については1階毎に約0.26%ずつ固定資産税額が上がり、20階から下については1階毎に約0.26%ずつ下がります。したがって40階の固定資産税は約5.2%の増税となり、1階の固定資産税は約5.2%の減税となるわけです。タワーマンションの購入後にかかる不動産取得税についても固定資産税と同様の改正が適用されます。

図 40階建てのタワーマンションの場合

改正対象外の中古物件が人気化しそう

 一方、相続税評価額である固定資産税評価額については今回の税制改正大綱では言及されていません。そのためタワーマンション節税への影響はほとんどないというのが一般的な見方です。不動産の相続に詳しい税理士からは、富裕層にとって高層階で5~6%程度固定資産税額がアップすることはさほど気にすることではないという声も聞かれます。高層階の固定資産税の増税幅よりも、資産圧縮効果の方が大きいからです。

 なお、前述のとおり今回の改正の対象は2018年1月1日以降に引き渡しの新築物件であり、既存の物件の固定資産税は高層階でも低層階でもこれまでどおりです。したがってこれからのタワーマンション節税を考えると、高層階でも低層階でも固定資産税額が変わらない中古物件に人気が集まるのではないかという見方もあります。2017年中に竣工される物件を駆け込み的に購入する動きも起こることも考えられます。相続税にダイレクトに影響する固定資産税評価額の見直しにより、タワーマンション節税封じが遠くない将来に行われるかもしれず、早めの対策が必要かもしれません。

 ただし、あまりにあからさまなタワーマンション節税は税務署から否認されるおそれがあります。かつて相続開始の直前にタワーマンションを購入し、被相続人の死亡の直後に売却したという事例がありました。相続人はタワーマンションの評価を実勢価格より低い相続税評価額で申告しましたが、裁判では認められず評価はマンションの取得価額となり、節税効果はご破算となったのです。こういったケースもあることを覚えておきましょう。

取材協力=税理士 佐々木孝成氏

著者:萬 真知子