公式コラム事例から検証!相続の落とし穴
手続きに数年かかることも! 海外不動産の相続における留意点
2017.05.08
著者:谷内 信彦
一口に「資産の相続」といってもその内容はさまざま。最近は海外にある資産を相続するケースも増えています。ただ株や証券、金融商品など動産であればともかく、こと不動産になると煩雑さも倍加し、相続や名義変更にプロの手が不可欠で、多大な時間とコストを必要とします。そこで今回は、海外不動産の相続時の注意点を紹介しましょう。

海外不動産の相続における難関は、相続手続きの煩雑さです。相続税の申告期限は被相続人の死亡日から10カ月以内で、国内の不動産の相続ですらかなりタイトな日数です。まして海外不動産は相続手続きや処分に数年かかることもままあり、いったん期限内に相続税の申告を行った後、海外分について修正申告するようなケースも珍しくありません。
時間がかかる理由として挙げられるのは主に、(1)日本と海外の2国での税務申告や相続手続きが必要なこと、(2)海外の相続法や税務手続きのルールに従う必要があること、(3)弁護士や不動産鑑定士など現地のプロの起用が欠かせず、リレーションやコミュニケーションに一定の日数が必要になること、の3つです。
また、遺言書などの有無によっても手続きが大きく違ってきます。例えばアメリカで遺言やトラストがないような場合、プロベート(Probate=検認)が必要です。これは裁判所が相続手続きをする「人格代表者」を任命し、その人が裁判所の監督のもと、財産や相続人の調査、さらに州法に従って分配する手続きのこと。完了するまで遺産はエステートと呼ばれる財団に管理されます。プロベートは裁判所の管理下で進められるため、一般的に1~3年かかるといわれています。

相続時の時価を証明する必要あり
ハワイのリゾートマンションを例に、アメリカでのプロベートという遺産手続きを説明しましょう。被相続人が死亡したら、裁判所におって人格代表者が選任されます。その後、人格代表者がアメリカ国内の総資産に関する遺産税申告書を提出し、国や州に遺産税を現地通貨で納税します。その納税証明を基に裁判所に相続や名義変更等を申請し、認められたところでプロベートが終了し、その後登記を完了させます。原則としてこうした流れですが裁判所でのやりとりにも相当の時間がかかってしまいます。
また、相続する不動産の資産額について、死亡日の時価を証明する必要があります。というのも、海外には日本のような不動産に対する路線価などがなく、市場での取引価格等、客観的な評価額を提出しなくてはなりません。現地の不動産会社や鑑定士等に、査定や鑑定評価などを依頼する必要があります。
今の例は、個人使用の不動産物件のケースですが、賃貸運用する「事業用物件」となると、さらに手続きが煩雑になります。不動産の価値だけでなく、賃料収入に対する納税申告が必要なうえ、事業用物件の譲渡課税ルールがより複雑だからです。
遺言の作成や生前の処分を検討
ただでさえ煩雑な海外不動産の相続をスムーズに取り計らうにはどうすればいいのでしょうか。それには早めの対策の実施がカギとなります。
まずは、きちんとしたかたちで遺言書やトラストを作成しておくこと。相続人のことを考えるなら、生前に処分しておくことをお薦めします。米国などでは、相続税の申告者は相続人でなく、被相続人=死亡者です。つまり遺産税の申告になります。それを考えるだけでも、生前のスムーズな贈与作業が不可欠なことが分かるでしょう。あるいは生前信託を設定しておくなどの方法が考えられます。
とはいえ、被相続人の存命中に相続の話をもちかけるのをためらう人も多いでしょう。その結果、相続人となる子どもが親に海外資産があることを知らず、死後その存在を知るケースもあります。例え故意でなくても、申告漏れは不提出として過少申告加算税が適用される恐れがあります。子どもたちの財産を目減りさせないためにも、早期の検討は大切です。
2012年の税制改正によって、国外財産調書制度が創設されました。これにより合計額が5000万円を超える海外資産を所有する人は、税務署に国外財産調書を提出することが義務付けられています。相続にあたってはこうした書類の確認も有効です。ただ、海外資産を持っていながら提出していない人もいるようです。こうした非合法状態を解消する意味でも、家族全員での情報共有と将来設計を考えることが肝要です。
遺書の作成ひとつとっても、国際ルールにのっとった作成方法があります。相続する国の税法や手続きなど、海外不動産の相続に詳しい税理士などをアドバイザーとして味方に付けるのが、スムーズな相続の近道といえます。
取材協力=公認会計士 永峰潤氏、税理士 三島浩光氏
著者:谷内 信彦