公式コラムオカネの最前線
新しい株価指数とETF
2017.05.15
著者:馬養 雅子
株式市場を知る上で欠かせないのが株価指数だ。日本では日経平均株価(日経225)とTOPIX(トピックス=東証株価指数)が代表的だが、このところ新しい株価指数が登場している。その背景に日銀の「量的・質的緩和」がある。
JPX日経インデックス400
TOPIX(東証株価指数)は東京証券取引所(東証)第1部に上場している全銘柄の株価を時価総額で加重平均した指数。日経平均株価は東証第1部上場銘柄のうち、流動性の高い銘柄から業種バランスを考慮して選ばれた225銘柄の平均株価を、株式分割などを考慮して修正した指数だ。
いずれも、企業の中身は問わないので、赤字の会社も含まれてしまう。過去には、指数を構成している企業が破たんした例もあるし、2016年3月末現在、東芝はTOPIXにも日経平均にも組み入れられている。
一方、最近設定された株価指数は、企業の“質”を考慮したものとなっている。
2014年1月6日から公表されている「JPX日経インデックス400」(JPX日経400)の銘柄採用基準は次のようになっている。
東京証券取引所の第1部、第2部、マザーズ、ジャスダックに上場している銘柄の中から、
・上場後3年未満、直近3年間で債務超過、連続営業赤字、連続最終赤字などの銘柄を除外
・直近3年間の売買代金合計の順位が1,200位以内の銘柄をピックアップ
・その中から時価総額の大きい上位1000銘柄について
(3年平均ROE×0.4)+(3年累積営業利益×0.4)+(時価総額の順位×0.2)
で総合スコアを算出する。
・それを、「社外取締役の選任」「IFERS(国際財務報告基準)の採用」「決算情報の英文開示」の3つの定性スコアと合計
・最終スコアの上位400銘柄を採用する。
スコアリングに用いられている「ROE」を日本語にすると「自己資本利益率」。株主が出資した資本に対する利益の割合を表したもので、収益力の高さを計る指標だ。JPX日経400を簡単にいうと、資本を効率的に活用し、投資家を意識した経営を行う400銘柄の時価総額に基づいた株価指数といえるだろう。銘柄は1年に1回(8月最終営業日)入れ替えを行う。
公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が日本株運用の指標にJPX日経400を採用しており、JPX日経400に連動するETF(上場投資信託)も6本上場している。日銀が2015年12月に「量的・質的緩和」をより推進するために、新たに年間約3,000億円のETF買い入れ枠を設け、当初はJPX日経400に連動するETFを買い入れ対象としている。JPX日経400に連動するETFには個人投資家の資金も流入しており、新しい株価指数として定着しているといえるだろう。

3つの新しい指数・ETFも
日銀は2016年5月6日に、「設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するための指数連動型上場年信託」を買い入れると発表し、次の3つの指数を指定した。
・MSCI日本株人材設備投資指数
日本で上場する大型・中型・小型株の中から、売上高に対する設備投資額の割合、売上高に対する総人件費の割合、設備投資成長率と売上高成長率の高い150社で構成。
・野村企業価値分配指数
国内で上場するすべての銘柄を対象に、収益性と、企業価値の株主や従業員への還元度を定量的にスコアリングして選定した上位銘柄(300が上限)の株価指数。
・JPX/S&P設備・人材投資指数
TOPIX構成銘柄を流動性、信用力、市場評価の安定性でスクリーニングし、設備投資の成長性、設備投資の効率性、人材投資の充実度のスコアリングで選定した200銘柄の株価指数。
いずれも、時価総額加重平均で算出される指数だが、時価総額の大きい銘柄の影響が大きいTOPIXと異なり、1銘柄の組み入れ比率に上限を設けている。
3つの指数の設定に伴い、それぞれに連動するETFも上場している。

日銀はETFをいついくら買い入れたかを公表しているが、2016年4月から、従来のETFとは別に、「設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETF」という項目を設けて買い入れ額を表示するようになった。買い入れもこまめに行っている。
新しい株価指数の有効性は?
ROEの高い企業や設備や人材に積極的に投資している企業は成長性が高く、そうでない企業より株価が高くなるはずだが、JPX日経400は今のところTOPIXとほとんど変わらず、最近はやや下回っている。
3つの設備・人材投資指数はそれぞれ選定基準が異なるとはいえ、実際に組み入れられている銘柄を見ると似たり寄ったりで際立った特徴はないように見えるし、設定されからまだ日が浅いので実力を判断するのは難しい。日銀が買い入れているからといって、連動するETFを個人投資家が積極的に買う状況ではなさそうだ。
これらの新しい株価指数の有効性がわかるには、もう少し時間が必要だろう。
(データは2017年3月末現在)
著者:馬養 雅子