公式コラム事例から検証!相続の落とし穴

相続での揉め事を防ぐ! 「遺言書」作成で注意したい5つのポイント

2017.06.05

著者:萬 真知子

「遺言書」を作成しておけばスムーズに遺産が相続されるはず。しかし作り方によっては逆に法的紛争につながる場合もあります。相続人が揉めない、そして困らない遺言を作るためのポイントを5つにまとめました。

 遺言書を作成すれば、財産を法定相続分とは異なる配分にしたり、法定相続人以外の人に渡したりできるため、被相続人の意思をストレートに反映した財産分けが可能となります。相続人にとっては、遺言書があればそれに沿って財産を受け取ればいいので、手間と時間のかかる遺産分割協議をする必要がなくなります。

 しかし遺言書の内容が、一部の相続人に不満が残るようなものである場合、法的紛争につながるおそれもあります。被相続人の意思をかなえ、相続人も納得できるような遺言書を作るには何に注意したらいいのでしょう。

(1) 遺言無効を防ぐ。遺言書作成時に意思能力があった証拠を残す

 遺言書の内容が相続人の一部に不満が残るようなものである場合、不満を持つ相続人としてはまず、「遺言無効」を争うことが考えられます。遺言作成当時、遺言者(遺言を作成した人)が既に認知症等で意思能力がなかったのではないか、遺言者の意思に反して無理やり書かせたのではないか、などといった理由から、遺言の効力を争うこととなります。

 このような遺言無効の争いを防ぐには、遺言者は遺言書作成時に意思能力があったという証拠を残しておくこと。例えば医師の診断書などが考えられます。遺言書作成の際に弁護士などに立ち会ってもらう方法も考えられます。当時の遺言者の手紙や日記、家計簿なども意思能力に問題がなかったことを示す証拠の一つになります。

 公正証書遺言の場合は、証人2名の立ち会いのもとで公証人が作成しますので、遺言無効が争われる余地は少なくなりますが、それでも遺言作成当時の意思能力の有無が問題となることがあります。そのような争いの余地を少なくする観点から、遺言書作成段階で可能な準備をしておくことをおすすめします。

(2) 遺留分を侵害しないこと。付言事項で財産の分け方の真意を伝える

 もう一つ、遺言書の内容に不満をもつ相続人が「遺留分減殺請求」をすることが考えられます。遺留分とは法定相続人に最低限保障されている財産の取り分のこと。法定相続分の半分となります。例えば相続人が子ども2人の場合、法定相続分は相続財産の2分の1ずつなので、各人の遺留分は4分の1ずつ。したがって親が「全財産を次男に取得させる」といった遺言を作ってしまうと、長男は遺留分である相続財産の4分の1を確保するために遺留分減殺請求をすることができます。なお、遺留分は兄弟姉妹以外の相続人(配偶者、子、直系尊属)だけに認められている権利です。兄弟姉妹には、遺留分減殺請求をする権利はありません。

 遺留分減殺請求がなされた場合には協議、調停、訴訟等で解決を試みることとなり、紛争の解決までに時間と労力がかかります。遺留分を侵害するような内容の遺言書を作ると、結局、相続人がこのような紛争を余儀なくされることとなります。相続人に負担をかけないように、相続人が揉めないようにという意図から遺言書を作成するのであれば、少なくとも遺留分に配慮した遺言内容することが望ましいと考えられます。

 また遺言書には付言事項を記すことができます。付言事項とは遺言書の内容のように財産を分けるに至った遺言者の思い、真意を伝えるもの。それだけに、あるとないのとでは大違い。法定相続分とは異なる分け方であっても、付言事項になぜそのような分け方にするのかという理由が明確に説明されていると相続人の納得が得られるということも考えられます。遺言書に関連した法的紛争の相談を受ける弁護士も「何か一言あればここまで揉めることはなかったのではないか」と残念に思うこともしばしばあるようです。

 例えば母親と長男一家が同居し、次男は独立しているというケース。相続財産は主に自宅で、金融資産は自宅の評価額の半分に満たないとしましょう。母親が遺言書に「お兄ちゃんは同居しているし、お嫁さんが私の面倒をみてくれたから自宅はお兄ちゃんに譲ります。○○(弟)にはマイホームを建てるときに資金援助をしたから、少ないけど残った預金で我慢してね」などと記しておけば、やや不公平な分け方でも「お母さんの最後の願いだから」と弟は受け入れやすくなるのではないでしょうか。

(3) 執行できない遺言に注意。寄付を考えているなら執行の可否を生前に確認

 遺言により、自分にとって愛着のある土地や建物を公共団体やNPO(特定非営利活動法人)に寄付して、何かの役に立ててほしいと考える人もいるでしょう。ただし相手方がそれを受け入れてくれるとは限りません。特に山林や木々に覆われた土地、古い民家等で換価処分等が難しい物件の場合には相手方が寄付を受けないことも予想されます。遺言のとおりに寄付することができないとなると遺言は執行不能になり、相続人はその財産について遺産分割協議をし直さなければならなくなります。

 これを防ぐには、遺言書を作成する段階で、寄付先の候補の団体等に受けてもらえるか打診してみることや、寄付先が受け入れない場合にはどうするのかということも含めて遺言書で手当てしておくことをおすすめします。

(4) 財産の変化に対応する。定期的に財産をチェックし、必要に応じて遺言書を書き換える

 遺言書を作成した後に財産の内容が変わることは十分に考えられます。相続人が兄弟2人で、兄に不動産を、弟に金融資産を分けるという遺言があったとしましょう。遺言書の作成後に遺言者の親が介護施設に入居して、金融資産の大半を使ってしまったとします。そのまま相続が発生してしまうと、兄は不動産を取得できますが、弟は取得できる金融資産がなくなり、遺留分の減殺請求をする可能性が出てきます。兄が相続した不動産を売却して、遺留分に相当する現金を用意しなければならなくなることも考えられます。このように遺言書作成当時から財産状態が大きく変化している場合には相続人の法的紛争を防ぎたいという思いから作成した遺言でも法的紛争に繋がってしまう可能性があります。

 このような紛争を防ぐためには、財産状態が変動した場合に、変化に応じて遺言書を書き換えることが考えられます。あらゆる事態に対応できる100%の遺言書を作成するには難しいかもしれませんが、相続人が揉めないようにという思いから遺言書を作成するのであれば、弁護士など専門家に相談しながら揉めない遺言書となっているかを点検していくことをおすすめします。

(5) 遺言書の所在を伝えておく。公正証書遺言なら相続人が保管先を調べられる

 遺言書は相続人に見つけてもらわないことには、その内容を実行できません。公正証書遺言であれば公証役場に保管されます。調べればどこの公証役場にあるのかすぐにわかるので、相続人は確実に入手できます。問題は自筆証書遺言の場合。どこに保管しているのか、相続人となる家族に伝えておく必要があります。中には生きている間は家族に遺言書があることを知らせたくない人もいるでしょう。その場合は弁護士に預けることも一つの方法です。家族には遺言書の有無には触れず、「自分に万一のことがあったら○○弁護士に連絡してほしい」と頼んでおくことが考えられます。


取材協力=弁護士 岡田美香氏、弁護士 田中秀幸氏

著者:萬 真知子