公式コラム事例から検証!相続の落とし穴

数千万円の節税ができることも! 養子縁組の効果と注意点

2017.08.07

著者:萬 真知子

相続税対策の一つに養子縁組をするという方法があります。2015年の相続税改正以来、富裕層を中心に養子縁組による節税の相談が増加傾向でもあるようです。その効果と注意点を見ていきましょう。

はじめに養子縁組による節税効果を見ていきましょう。養子は法定相続人となるため、基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)や生命保険の非課税枠(法定相続人1人につき500万円)が増え、節税につながります。

そして一番節税効果が大きいのは税率の区分が変わること。相続税は財産を法定相続人が法定相続分通りに相続したと仮定して税額を計算します。養子縁組により法定相続人が増えると、適用される相続税率の区分が40%から30%に変わるなど低い区分になる可能性があり、ケースによっては数千万円以上の節税効果が期待できます(後程、例を挙げます)。

■表1 養子縁組による節税効果
【1】基礎控除が増える
【2】生命保険の非課税枠が増える
【3】相続税の税率の区分が低い税率に変わる

法定相続人にできる養子には人数の制限がある

だったら養子の数をたくさん増やせば、より大きく節税できるのではと考えてしまいます。確かに民法上は何人でも養子縁組ができます。しかし税法上は制限があり、法定相続人に加えられる養子は、実子がいない場合は2人まで、実子がいる場合は1人だけと定められています。

孫や息子のお嫁さんを養子にするケースが多い

養子縁組は誰とでもできますが、相続の場面でよくあるのは、孫を養子にするケース(孫養子)と子の配偶者を養子にするケースです。子の配偶者というのは、要するに息子のお嫁さんや娘のお婿さん。特にお嫁さんについては、老後の面倒をみてくれたお礼に財産を残したいというときに、節税も兼ねて養子にするケースが多く見られます。被相続人に子がいない場合は、甥や姪を養子にするケースもあります。

なお、養子縁組をしても元の親子関係や夫婦関係はなくなりません。孫が祖父の養子になったとしても、孫の親との親子関係は変わらず、親が亡くなったときには親の財産を相続できます。

孫養子の相続税は2割加算

では養子縁組をして法定相続人が増えることで、どの程度の節税効果があるのか表2にまとめた例で見ていきましょう。赤字で示した金額が養子縁組による節税額です。全体的には、やはり相続財産が多くなるほど、養子縁組による節税効果は大きくなることがわかります。

表2では被相続人の配偶者がいるケースといないケースで表を分けていますが、配偶者がいる場合は配偶者の税額軽減(*)により相続税が大きく減額できるため、養子縁組による節税効果は、相続財産が5億円の場合でも600万円程度になります。

(*)法定相続分か1億6000万円のどちらか多い金額を相続財産から差し引ける。

表を見ながら、養子を長男の子にした場合と長男の配偶者にした場合とで節税額に違いがあることに疑問を感じた人もいるでしょう。これは孫養子の場合、相続税が2割加算されるため。その分、節税効果が低減するわけです。長男の配偶者が養子になる場合はそうした措置はないので、節税効果はこちらのほうが大きくなります。

養子縁組により税率区分が45%から40%に下がったケース

一方、被相続人の配偶者がいないケースは養子縁組によりかなりの節税効果が認められます。いずれの場合も節税額は1000万円を超え、相続財産5億円で長男の配偶者を養子にした場合は2230万800円もの節税になっています。

相続財産5億円の場合をもう少し詳しく見ていきましょう。法定相続人が長男と長女の2人の場合の税率区分は何%になるのでしょうか。基礎控除は4200万円(=3000万円+600万円×2人)なので、相続財産から差し引くと4億5800万円。法定相続人が子だけの場合、相続財産は等分するため2分の1ずつ分けたとして税額を計算します。1人当たりの相続財産は2億2900万円。この金額を表3の相続税の速算表にあてはめると、税率区分は3億円以下の欄となります。すると税率は45%です。

では長男の配偶者を養子にした場合はどうでしょう。法定相続人は3人となるため基礎控除は4800万円(=3000万円+600万円×3人)。相続財産から差し引くと4億5200万円となります。これを3等分すると1人当たりの相続財産は1億5066万6666円です。この金額を表3にあてはめると、税率区分は2億円以下の欄の40%です。法定相続人が長男と長女の2人の場合は税率区分が45%でしたが、長男の配偶者を養子にすることで40%に下がり、大きな節税効果が得られたわけです。

亡くなる寸前の養子縁組は認められない可能性も

相続財産が大きくなるほど節税効果が高くなる養子縁組ですが、「節税ありき」で突っ走ってしまうと、問題や相続人間の争いが生じる場合もあります。注意点を押さえておきましょう。

2017年1月、親族からの「相続税対策を目的とした養子縁組は無効ではないか」という訴えに対して、最高裁は「動機として相続税の節税対策があったとしても、それと養子縁組をする意思は併存し無効ではない」という判決を下しました。最高裁が、相続税対策としての養子縁組を否定するものではないという立場を示した画期的な判決です。

ただし「相続税の不当減少」といって、相続税を不当に減少させる目的での養子縁組は税務署から認められません。「不当に」というのがどの程度なのかは難しいところですが、例えば被相続人が亡くなる寸前に駆け込みのような形で養子縁組をし、法定相続人を増やすケースは認められない可能性が大です。養子縁組をしたものの、養子には財産は残さないといった場合などもあからさまな節税目的とみなされ、養子を法定相続人に加えられなくなるおそれがあります。養子縁組が認められないと、節税対策は水の泡になるうえ、相続税の申告をやり直すという手間も増えます。

税務署に認められたとしても、法定相続人間で争いが生じるおそれもあります。養子縁組により法定相続人が増えると、相続税の申告期限までに遺産分割協議が整わず、特例等が使えないため余分に税金を支払うことになりかねません。また、孫養子をとった場合、他にも孫がいると「何であの孫だけ養子になって財産をもらえるんだ」と孫の親の立場である兄弟姉妹間で争いになることがあります。そもそも養子は無効であると訴えを起こされる場合も考えられます。

養子縁組のトラブルを防ぐには?

こうしたトラブルをできるだけ防ぐにはどんな対策があるのでしょう。他の法定相続人などから養子縁組の無効を訴えられないためには、遺言書を作成するときと同様、被相続人に意思能力があるうちに養子縁組をすることが重要です。意思能力を客観的に証明するために、医師の診断書や養子縁組をする際のやりとりの記録を取っておくといいでしょう。

また、相続人間のトラブルのもとは主に不公平感です。孫養子をとってその孫に一定の財産を残す場合には、養子にしない他の孫にも財産を残すように配慮することをお勧めします。子の配偶者を養子にする際には、遺言書の付言事項として「○○さんには介護で世話になったから養子にして財産を分けたけど、他の子供たちも納得してほしい」などと記しておきましょう。

取材協力=税理士 伊藤博昭氏、税理士 佐々木孝成氏

著者:萬 真知子