公式コラムオカネの最前線
高所得者ほど有利な「ふるさと納税」だが・・・
2017.10.16
著者:馬養 雅子
「ふるさと納税」ブームが続いている。とてもおトクで「使わないとソン」とまでいわれるが、ふるさと納税がどういう仕組みで、なぜおトクなのかきちんと理解していない人も多いのではないだろうか。ふるさと納税の仕組みと問題点を見てみよう。

おトクのポイントは“返礼品”と税金の“控除”
ふるさと納税は“地方創生”を目的に、2008年にスタートした。納税という名前ではあるが、実際には地方自治体への寄付だ。寄付先は生まれ故郷に限らず、お世話になったところ、応援したいところなど、どこでも構わない。
ふるさと納税がおトクなポイントは2つある。1つは、寄付した自治体からお礼の品が受け取れることが多い点、もう1つは、寄付したことによって「寄付金控除」が受けられ、所得税・個人住民税の負担が軽減される点だ。寄付金控除は、ふるさと納税以外でも適用が受けられるが、ふるさと納税の場合は個人住民税の寄付金控除に特例があるうえ、2015年から控除額の上限額が拡大されて“おトク度”が高まっている。
返礼品は、和牛などの肉類、カニなどの魚介類、米や野菜、果物などの食品が中心。返礼品を受け取れるための寄付金額は1万円以上がほとんどだが、最近は数十万円から100万円以上の寄付を条件とした高額な返礼品もある。
どの自治体がどんな返礼品を用意しているかがわかるサイトやガイドブックが登場し、ふるさと納税する人は返礼品で寄付先を選んでいるのが実情だ。
税額軽減の仕組み
ふるさとの納税で軽減される税額は、次のとおり。
・所得税:(ふるさと納税額-2,000円)×所得税率
・個人住民税・基本分:(ふるさと納税額-2,000円)×10%
・個人住民税・特例分:(ふるさと納税額-2,000円)×(100%-10%-所得税率)
例えば、1年間に5万円のふるさと納税をした場合、所得税率が20%だと
所得税の控除額は
(5万円-2,000円)×20%=9,600円
個人住民税の基本分は
(5万円-2,000円)×10%=4,800円
個人住民税の特例分は
(5万円-2,000円)×(100%-10%-20%)=33,600円
所得税・住民税合わせた軽減額は、
9,600円+4,800円+33,600円=48,000円
となる(復興特別所得税は省略)。

ふるさと納税・控除額のイメージ<ふるさと納税額5万円、所得税率20%の場合>
つまり、寄付金控除によって、寄付した額から2,000円差し引いた額が還ってくる。つまり、実質2,000円の自己負担で返礼品が受け取れることになるわけだ。寄付額が一定の範囲であれば、寄付額や所得税率にかかわらず、“実質2,000円の負担”ですむ。
高所得者が有利なワケ
個人住民税の特例分には、「個人住民税の所得割額の2割まで」という上限がある。所得割額の計算にあたっては、所得額から所得控除を差し引くので、扶養家族の有無や人数、社会保険料控除や生命保険料控除、医療費控除などによって変わってくるが、所得が多ければ所得割額も多くなる。そのため、実質2,000円の負担ですむ寄付金額の上限も、所得の高い人ほど高くなる。
例えば、独身でふるさと納税する本人の年間給与所得が600万円のケースでは、上限額のめやすは76,000円なのに対して、給与所得1,200万円だと上限額のめやすは228,000円となる(基礎控除と社会保険料控除のみを考慮した場合)。
実質2,000円負担ですむ寄付の上限額はひとりひとり違うため、ふるさと納税関連のサイトの中には、上限額がわかるシミュレーションができるところがある。
“おトク”さだけが注目されているが・・・
だが、よく考えて見ると、寄付とはもともと見返りを求めないもののはず。「いくらまでの寄付なら自己負担2,000円ですむ」という考え方は本末転倒ではないだろうか。
返礼品競争の過熱も問題になっている。返礼品は、寄付してくれた人に地元の名産品などを送っていたのが始まりだが、自治体が寄付集めのために地元とは関係のないものや、高額な商品などを返礼品とするようになっている点が問題視されている。
2015年4月の総務大臣通知では、「換金性の高いプリペイドカード等、高額または寄付額に対して返戻割合の高い返礼品」を禁じており、2016年4月にはそれに「資産性の高いもの(電気・電子機器、貴金属、ゴルフ用品、自転車等)」を加えている。さらに、2017年4月には「返礼品の価格を寄付額の3割までに抑える」ことを全国の地方自治体に要請している。
こうした流れを受けて、返礼品をとりやめる自治体も出てきているが、まだ少数派。ふるさと納税による税収増に期待して、返礼品を増強するところが多い。
ふるさと納税は、自分が住んでいる自治体に納付すべき個人住民税を、他の自治体に納税することになる。したがって、ふるさと納税する人が多い都市圏の自治体は税収が減ることになる。それによって、行政サービスの低下や財政悪化の可能性もないとはいえず、ふるさと納税する人はそこまで考える必要があるかもしれない。
ふるさと納税は、する人にもされる自治体にも良識が求められているといえる。
(データは2017年3月末現在)
著者:馬養 雅子