公式コラムオカネの最前線
認知症などに備える「任意後見制度」
2018.01.22
著者:馬養 雅子
認知症などに備える「任意後見制度」
高齢化が進むにつれて、認知高齢者も増えている。2012年には約462万人が認知症で65歳以上高齢者の約7人に1人だったが、2025年には約700万人、65歳以上高齢者の約5人に1人になると予測されている。
認知症になって判断能力が衰えるとお金の管理が難しくなる。家族がいても、定期預金の解約や金融資産の売却などは本人でなければできず、日常生活に支障をきたすことも出てくるかもしれない。悪質商法で不要なものを大量に買わされたり、介護が必要になっても介護サービス業者との契約ができずに適切な介護が受けられなかったりする可能性もある。
あらかじめ後見人を決めておく
こうした事態を避けるために成年後見制度が設けられている。後見人が本人に代わって財産管理や契約行為を行う仕組みだ。成年後見制度には、後見が必要になってから家庭裁判所に後見人を選任してもらう「成年後見」と、あらかじめ後見人を決めておく「任意後見」の2つがある。ここでは任意後見について見てみたい。
任意後見制度を利用するには、判断能力が衰える前に後見人を選んで任意後見契約を結んでおく。契約には、後見人に何をしてもらうかを記載する。
例えば、通帳・印鑑の管理、預貯金の出し入れ、年金の受取、税金等の支払いなど日常のお金の管理のほか、不動産の賃貸借契約、医療施設への入院手続きや支払い、老人ホームなど介護施設への入居に関する契約や手続き、亡くなったあとの財産の処分や遺産分割なども後見人に任せることができる。
任意後見契約は公正証書にして、公証役場を通して登記しておく。その際、2万円程度の手数料がかかる。
裁判所への申立で後見が始まる
その後、本人の判断能力が不十分になったら、本人や家族などが家庭裁判所に後見開始の申立を行う。裁判所は審判を行って、後見人を監督する任意後見監督人を選任する。これによって後見人による後見がスタートし、監督人は後見人が適正に職務を行っているかを定期的にチェックする。
後見人は親族でもかまわない。成年後見制度ができた当初は、本人の配偶者が子が後見人になるケースが8割以上だったが、家族だと後見人が公的な職務だという意識があまりないために、後見される人の資産を不正に使ったり、他の親族との間でトラブルになる事例があった。
そのため、最近では司法書士、弁護士などの専門職が後見人の7割以上を占めるようになっている。ただ、専門職は人数に限りがあり、今後、任意後見の利用者が増えると後見人が不足することが予測されることから、各自治体では市民後見人の養成を行っている。
親族なら無報酬も
後見がスタートしたら、後見人に報酬を支払う。金額は家庭裁判所が決めるが、日常のお金の管理の場合で月額2万円程度、財産の管理を任せる場合は管理する財産額によって3万円~6万円がめやす。任意後見監督人にも1万円~3万円程度の報酬を支払う。
後見人が親族の場合は無報酬であることが多い。そのようなケースでは、遺言を残して、後見人を務めた人に遺産を多めに相続させたり、遺贈したりすることも考えたい。
今はまだ元気だが将来のことが心配、という人は任意後見制度の利用を検討してはどうだろう。後見人を誰にするかや後見契約の内容については、任意後見を扱う司法書士事務所・弁護士事務所などに相談するとよい。
著者:馬養 雅子