公式コラムオカネの最前線

確定申告で損益通算・節税のつもりが負担増になることも

2018.03.05

著者:馬養 雅子

2017年は日経平均株価が大きく上昇したため、株や投資信託を売却して利益を得た人もいるだろう。金融商品を売却して得られた譲渡益や、保有している間に受け取った配当・分配金などには所得税・住民税合わせて20%(復興特別所得税は考慮していない、以下同じ)の税金がかかる(NISA〔少額投資非課税制度〕を利用している場合を除く)。


配当・分配金は通常、支払われるときに税金が源泉徴収されている。譲渡益については投資家が確定申告をして納税するが、金融機関の「源泉徴収あり特定口座」で取引している金融商品については、税額の計算や納税を金融機関が投資家に代わって行うので、投資家は税金に関する手続きをする必要がない。

株や投資信託などは売却によって譲渡損失が生じることもある。その場合、同じ年に得られた譲渡益があればそれと相殺することで、譲渡益にかかる税金を少なくしたりゼロにしたりできる。これが「損益通算」だ。

例えば、20万円の譲渡益があったとすると、かかる税額は「20万円×20%=4万円」だが、同じ年に10万円の損失があったら、それと損益通算すると「(20万円-10万円)×20%=2万円」となり、税額が少なくなる。損失が20万円だったら利益はゼロだから、税金はかからない。
また、利益より損失のほうが大きくて、損益通算してもまだ損失が残ったら、それは翌年から最大3年間、繰り越すことができる。これを損失の「繰越控除」という。
例えば、譲渡益が10万円、譲渡損失が25万円だったら、損益通算しても残る15万円の損失を繰り越すことで、翌年の譲渡益と損益通算できる。

損益通算できる範囲は広がってきていて、上場株式や株式株式投資信託、ETF、REITの譲渡損と譲渡益だけでなく、上場株式の配当や株式投資信託の分配金とも損益通算が可能。2016年からは、特定公社債(国債、地方債、外国国債など)の売却益、償還差益、利子とも通算できるようになっている。

上場株式や株式投資信託、特定公社債等をすべて同じ金融機関の「源泉徴収あり特定口座」で取引していれば、その中で損益が通算されるので税金に関する手続きをしなくてすむ。「源泉徴収なし特定口座」も損益通算は口座内で行われる。
ただし、A証券の特定口座とB証券の特定口座のように異なる金融機関の特定口座のあいだでの損益通算や、特定口座と一般口座の間での損益通算をする場合は確定申告が必要だ。また、譲渡損失を繰り越すには、確定申告が必須となっている。

このところの株価の上昇を受けて値上がりした株を売って得た利益と塩漬けになっていた株や投資信託の売却損と損益通算する、あるいは株の譲渡損失を配当と損益通算するために確定申告するといったことが考えられる。申告すれば、特定口座で源泉徴収された税金の還付(払い戻し)が受けられるので節税になるが、確定申告にはデメリットもある点には注意したい。

例えば専業主婦の場合、年間の所得が38万円以下だと夫は配偶者控除が受けられる。株や投資信託の取引で38万円超の利益を得ても、源泉徴収あり特定口座であればその中で課税関係が終了するので、配偶者控除には影響しない。しかし、確定申告では所得を申告することになるため、夫が配偶者控除を受けられなくなることがある。

自営業者や年金生活者で国民健康保険あるいは後期高齢者医療保険に加入している人は、確定申告すると損益通算前の利益が所得に加算され、保険料の負担が増える可能性がある。介護保険料も同様だ。確定申告で還付される税額より保険料の負担増が大きければ、トータルでマイナスとなることもありうる。
国民健康保険料、介護保険料の算定の仕方は市区町村によって異なるので、自治体のホームページなどで保険料がどうなるかを試算してみるとよい。確定申告の時期が近づくと各地で無料相談会が開催されるので、損益通算で還付される税額などについて相談してみるのも一案だ。

著者:馬養 雅子