公式コラム事例から検証!相続の落とし穴
祖父母から孫への贈与 名義預金を回避するには生命保険を活用
2018.06.11
著者:萬 真知子
相続時に名義預金は課税されやすい
「かわいい孫の将来のために」と、お孫さんが小さいときから孫名義の預金口座をつくり、“贈与のつもりで”毎月のようにせっせと入金しているおじいちゃん、おばあちゃんは少なくないでしょう。財産の一部を孫に移転すれば、その分、相続財産が減り相続税対策にもなりそうです。しかしこの孫名義の預金は、いざ相続が発生したときに税務当局から「名義預金」だと指摘され、相続税の課税対象になるおそれがあります。相続税の税務調査のときに、最も課税されやすいのがこの名義預金とも言われています。愛情から孫に財産を贈与したのに、それが相続税のモトになる事態は是非とも避けたいところです。
そもそも名義預金とは、祖父母と孫の間でいうと、贈与の手続きを経ずに祖父母(以下、祖父とする)が孫の名義で預金口座を開設して預金をすることです。「孫名義にした時点で贈与したことになるのではないか」と疑問を抱くかもしれませんが、贈与は、贈与をする人(贈与者)が「あげます」、贈与を受ける人(受贈者)が「もらいます」という意思表示をして初めて成立する契約です。受贈者である孫が預金の存在を認識していなければ、そもそも贈与は成立しません。
贈与の契約は双方の口頭でも成立しますが、「贈与契約書」を作成しておくと贈与があったことを客観的に証明しやすくなります。ただし、預金口座の開設や預金通帳と印鑑などの管理を贈与者の祖父母がしていると、孫の名義は形式上借りているだけで、実質的には祖父の預金だと判断されてしまいます。贈与だと認めてもらうには、孫が預金口座の開設、通帳や印鑑の管理をしている必要があります。
孫の契約は親が法定代理人に
とはいえ、孫が小さいうちは本人が上記の手続きをするわけにはいきません。祖父から孫への贈与を成り立たせるには、孫の親が法定代理人となって贈与契約や預金口座の開設・管理をする必要があります。また、祖父から贈与税の基礎控除である年110万円を少し超過した額の贈与を受け、法定代理人の親が贈与税の申告をしておくと、贈与があったことを証明する材料が一つ増やせます。
ここまで整えたとしても、孫の口座に預金が貯まっていく一方で消費や投資などに使われている形跡がないと、やはり本人(または法定代理人)が自分の意思で管理しているのではなく、形式だけの名義預金だと指摘されるケースがあります。しかし、孫の将来を考えて贈与する祖父の立場からすれば、孫が成人してまとまったお金が必要になるまでは、贈与した預金を無駄遣いしてほしくないという気持ちもあるでしょう。
孫を契約者にして終身保険に加入
こうした名義預金の諸々の悩みを一挙に解決するのが、生命保険を活用した対策です。利用するのは終身保険で、下記のような形態で加入するのが一般的です。
・契約者(保険料を支払う人)/孫
・被保険者(保険契約の対象になる人)/孫の親(一般的に父親)
・受取人(死亡保険金や解約返戻金を受け取る人)/孫
まず、法定代理人である孫の親が孫の預金口座を作り、そこに祖父が保険料の支払いに不足しない金額を振り込みます。次に贈与者の祖父と受贈者の孫(実際には法定代理人である孫の親)との間で贈与契約を結び、贈与契約書を作成します(贈与は単年契約のため、贈与がある年には毎年贈与契約書を作成します)。
これにより贈与が成立すれば(贈与の成立が重要です)、振り込まれたお金は孫のものになり、孫に保険料の支払い能力が生じて契約者になれます。この段階まで来たところで、孫の口座から終身保険の保険料が引き落とされるように手続きをしましょう。なお、贈与額が基礎控除額である年110万円を超える場合、贈与を受けた翌年の3月15日までに子が贈与税の申告をしなければなりませんが、成人するまでは法定代理人として親が行います。
このように、きちんとした手順を踏んで預金の贈与を行ったうえで保険料の引き落としが行われれば、預金が貯まりっぱなしにならず孫が使っていることになるので、相続が起きたときに税務当局から名義預金と認定されずに済むのです。

孫が受け取る保険金等は一時所得になるメリットが
上記の契約形態で終身保険に加入することで、受け取る保険金について税制上のメリットがあるのも、この対策のポイントになります。終身保険は被保険者が死亡したときには「死亡保険金」が、途中で解約した場合には解約までの期間に応じた金額の「解約返戻金」が受け取れます。保険金等への課税関係は図表2のとおりなので、上記の契約形態の場合、孫が受け取る死亡保険金や解約返戻金は一時所得となり所得税(+住民税)の対象となります。一時所得の課税対象額の計算式は下記のとおりで、保険金等による所得を1/2以下程度に圧縮できるのです。
一時所得の課税対象額
={死亡保険金(または解約返戻金)−払込保険料−50万円}×1/2
保険金等については被保険者が孫の親なので、死亡保険金について考えるよりも孫が成人後に解約返戻金をうまく活用できるように加入するといいでしょう。保険料の払い込み終了から一定期間が経過すると、払い込み保険料累計より解約返戻金のほうが上回るタイミングが訪れます。孫が成人する頃にそのタイミングが来るように加入すれば、その後解約返戻金が徐々に増えていくので、孫が結婚やマイホーム購入などまとまったお金を必要とするときに役立てられます。

生命保険の契約者は変更できる
ここまで読んできて、孫のためにと生命保険に加入したものの、自分が契約者になっていたというおじいちゃんもいるかもしれません。先の例の場合、契約者が祖父の場合、孫が受け取る死亡保険金も解約返戻金も贈与税の対象になります(図表2)。保険金等はまとまった金額になるうえ、受け取った保険金等からは基礎控除の110万円しか差し引けないため、将来、孫にそれなりの税負担が生じてしまいます。
ですが生命保険の場合、被保険者以外は変更できます。今からでも将来の孫の負担を抑えるには、前述の手順で孫に保険料の支払いに不足しない金額を贈与し、贈与が成立したところで契約者を孫に変更する手続きをしておきましょう。この場合、受け取る保険金等について、祖父が契約者の期間に相当する分は贈与税の課税対象となりますが、孫が契約者になってからの期間に相当する分は所得税(+住民税)の課税対象となり、全額贈与税の課税対象の場合より税負担は抑えられます。契約者の変更については、2018年1月1日以降の変更分から支払調書(生命保険会社から税務署に提出される書類)に記載されることになっています。
なお、祖父から孫への贈与のように、資産の移転を一世代飛ばすことは相続税対策上有効なことはご存じでしょう。2015年の税制改正により相続税が増税となったため、財産移転は同一世代間(配偶者)に偏らず、なるべく下の世代に移すようなプランを立てると子や孫世代の負担が軽減されますが、くれぐれも名義預金にならないようご注意ください。
取材協力=税理士 内藤克氏
著者:萬 真知子