公式コラムオカネの最前線
仮想通貨はどこへ行く
2018.06.25
著者:馬養 雅子
2017年12月に、仮想通貨の1つであるビットコインが大きく値上がりしたあと急落し、2018年1月には仮想通貨のNEM(ネム)が不正に出金されて流失するという事件が起こった。マスコミを騒がせた2つの出来事によって、“仮想通貨”や“ビットコイン”という言葉は広く認識されるようになったが、言葉は見聞きしていても、そもそもどんなものなのかよくわからない、という人も多いだろう。ここでは仮想通貨やビットコインとはなんなのかをごく簡単に説明し、2つの出来事を振り返って、今後どうなるのかを見てみたい。
発行主体や管理者のいない“通貨”
仮想通貨は、一定の価値を持ち、ネットワーク上でのやり取りや、モノやサービスとの交換ができる点では電子マネーと同じようなものといえる。ただ、電子マネーはその価値が中央銀行が発行する「円」という法定通貨によって裏付けられているのに対して、仮想通貨は発行主体や管理者がおらず、価値を裏付けるものがない点が大きく異なる。
仮想通貨の大きな特徴は、“ブロックチェーン”という仕組みを使っていることだ。
例えば、銀行間でのお金のやりとりのデータは中央の大きなサーバーに集められている。そのため、サーバーに問題が起こると取引データが失われる可能性があるし、ハッキングなどによってサーバーのデータが改ざんされるリスクもある。
それに対して、ブロックチェーンは「誰が誰にいくら送金した」というデータが暗号化されて“ブロック”に書き込まれ、その記録に次の取引データが追加されて新たなブロックが作られるという形でつながっていく。ブロックはネットワークにつながるすべてのコンピューターで保管され、取引履歴が公開されるため、不正や改ざんがされにくい。
仮想通貨はブロックチェーンの仕組みを使うことで、低コストで海外への送金できる。仮想通貨での買い物が一般的になればキャッシュレス化が進んで現金を持ち歩く必要がなくなり、海外旅行のときの両替も不要になる。
ビットコインバブルで“億り人”も
仮想通貨を入手するには、仮想通貨交換業者で取引口座を開設して、円と交換する。買った仮想通貨は他人の口座に送金したり、必要に応じて日本円に戻したりする。仮想通貨での支払いが可能な小売業者もあり、仮想通貨で商品を買うこともできる。
仮想通貨の価格は株と同じように、買う人が増えれば上がり、売る人が増えれば下がる。また、安いときに買って高いときに売れば、その差益を得ることができる。
キャッシュレス化が進むなか、仮想通貨は将来的に広く流通して価値が上がるという予測から、仮想通貨の1つであるビットコインを買う人が増え、2017年に入ったころから価格が上がり始めた。それを見て、さらに価格が上がると考えた人が仮想通貨を買う。買うから上がる、上がるから買うというスパイラルが起こり、ビットコインの価格は急上昇。2016年末に1単位10万円程度だったものが、1年後の2017年12月17日には218万円程度まで大きく値上がりした。だがその後に急落し、2月には99万円程度まで下がった。
この間にビットコインを売り抜けて、1億円を超える利益を上げた“億り人”と呼ばれる人たちも現れた。彼らは、手持資金を担保にして数十倍あるいは100倍以上の取引を行う証拠金取引によって大きな利益を得たとみられる。一方で、価格急落によって大きな損失を被った人もたくさんいる。まさにビットコインバブルだった。
ビットコインは仮想通貨の中で最も資産規模が大きいが、それ以外にも1500以上の仮想通貨があるといわれている。大きな流出があったNEMもその1つだ。安全性の高いブロックチェーンで取引されているのに、なぜNEMが流出したのだろうか。
NEMは、ブロックチェーン上ではなく、交換業者であるコインチェック社の仮想通貨口座から不正に引き出されて流出した。同社のセキュリティーに問題があったのだ。
仮想通貨とブロックチェーンの今後
ビットコインバブルや流出事件を経て、仮想通貨は今後どうなっていくのだろうか。今のところ、3つの流れが考えられる。
①金融商品としての仮想通貨取引
大手ネット証券会社であるマネックス証券は、流出事件を起こしたコインチェック社を買収して仮想通貨取引業に進出した。一方、金融庁は交換業者への規制を強めている。交換業者のセキュリティーが強化され安全性が高まれば、FX(外国為替証拠金取引)のように、金融商品として仮想通貨を取引することが広がるかもしれない。
②銀行による仮想通貨発行
従来の仮想通貨には発行者や管理者がいないが、銀行が仮想通貨を発行すれば、単位が「円」となって価値が裏付けられるだけでなく、資金の決済、送金などが低コストできるようになる。中央銀行が仮想通貨を発行することも検討されており、実証実験も始まっているが、実現には時間がかかりそうだ。
③ブロックチェーンの金融以外への応用
不正や改ざんがしづらいブロックチェーンの仕組みは、不動産の登記や医療情報の記録など適しているといわれ、こうした分野での活用が広がる可能性がある。ただ、3つの中では実現に最も時間がかかるのではないだろうか。
仮想通貨には価格の根拠となるものがないので、利益目的での売買は投機であり、資産形成には向かない。法の整備もまだこれからというところだ。とはいえ、将来的にはさまざまな分野で仮想通貨やブロックチェーンが活用され、世の中を大きく変える可能性もある。今後どのように発展していくかを見守りたい。
著者:馬養 雅子