公式コラム事例から検証!相続の落とし穴
相続後に空き家になる実家「空き家の譲渡所得の3000万円特別控除」を検討
2018.08.06
著者:萬 真知子
両親の死後に、実家を相続する人は数多くいるでしょう。ただ、別の場所に家を構えていると、そこに住む人はあまり多くはないのではないでしょうか。そうなると実家は空き家になります。総務省の調査(*1)によると、全国に空き家は約820万戸あり、総住宅数に占める割合は13.5%にのぼります。およそ8軒に1軒は空き家という計算になり、しかもその数は50年以上にわたって一貫して増え続けています。
また、国土交通省の調査(*2)によると、空き家の所有者の52.3%が相続により取得しています。実家を相続したものの、住まいにせずに空き家にしているケースが多いことがうかがえます。
(*1)総務省統計局「平成25年 住宅・土地統計調査」
(*2)国土交通省「平成26年 空き家実態調査」

実家を空き家にして放置すると、固定資産税が6倍に!?
実家を空き家にすると、相続人には様々な負担がかかります。人が住まない家を放置していると老朽化が進むので、時々メンテナンスに出向く必要がありますが、遠距離だとなかなか難しいものです。専門業者などに頼むと費用がかかります。
空き家になった実家の固定資産税も相続人の負担となります。ただし住宅の固定資産税は住宅用地の特例により、土地については本来の税額の1/6に減額されています(200㎡まで。200㎡超の部分は1/3に減額)。
ところが、2015年に「空き家等対策の推進に関する特別措置法」が施行され、空き家の固定資産税の取り扱いが変わりました。空き家が管理不行き届きにより倒壊したり不衛生な状態となったりして周囲に危険を及ぼすようになると、市区町村から「特定空き家」に指定されるおそれが出てきたのです。指定後、所定の期間内での改善を怠ると、その空き家は住宅用地の特例の対象外となり、1/6に減額されていた土地の固定資産税は本来の額に。つまりこれまでの負担の6倍に跳ね上がってしまいます。
親の生前に売却するのも一つの選択肢だが……
住まない実家は所有しているだけで一定のコストがかかり続けます。将来、実家を相続してもそこには住まない、あるいは既に実家を相続したが住む予定はないという場合には、売却が一つの選択肢になります。
実家の売却となると、親が存命中は親の意向を最優先したほうがよいなど、考慮しなければいけないことが多々あります。それはそれとして、税金面での有利・不利に絞って売却のタイミングを考えると、生前よりも親の死後のほうがよさそうです。
生前に売却する主なデメリットは2つ挙げられます。まずは、売却によって譲渡益が生じ、それを預金などの金融資産にすると、将来相続財産となる金融資産が増えてしまうこと(そのお金を親が存命中に使ってしまえば話は別ですが)。2つ目は、住居をはじめ不動産は相続の際に一定の評価減が受けられますが、金融資産は時価での評価となることです。不動産は生前に換金せずに不動産のまま相続したほうが、税負担を軽減できるわけです。ですから売却は生前ではなく、相続後のほうが有利となるのです。
「小規模宅地等の特例」と「空き家の3000万円控除の特例」の併用が有利
相続後に売却する場合、税金面でのベストプランとして考えられるのは、「小規模宅地等の特例」と「空き家の譲渡所得の3000万円特別控除」(以下、空き家の3000万円控除の特例)の併用です。
小規模宅地等の特例は、ご存じの方も多いでしょう。被相続人が自宅として使っていた土地(330㎡まで)の相続税評価額から、8割引いてもらえる制度です。まず相続時にこれを利用し、相続税評価額を大きく下げて実家を相続します。そして相続税の申告期限まで所有し(小規模宅地等の特例を利用するための要件の一つ)、その後、空き家の3000万円控除の特例を利用して売却するという段取りです。
しかし小規模宅地等の特例は利用できる人が限られています。両親とも他界している場合、子の立場でこの特例を利用できるのは、ざっくりいうと、(1)「生前に親と同居していた子」、あるいは、(2)「別居だが、相続開始前3年以内に自身またはその配偶者の持ち家に住んでいない子。かつ賃貸住宅(3親等以内の親族名義や、家族で経営する会社名義ではない物件)に住み続けている子」です(*3)。
ただし(1)がいると、(2)は小規模宅地等の特例を利用できません。ところが、後述しますが(1)がいると空き家の3000万円特別控除は利用できなくなります。つまり、親の実家を相続した子で小規模宅地等の特例と、空き家の3000万円控除の双方を利用できる可能性があるのは、子に(2)に該当する人がいる場合だけとなります。とはいえ、小規模宅地等の特例が利用できなくても、空き家の3000万円控除の特例だけでも節税効果は高いので、次の項で適用を受けるための要件を確認しましょう。
*3 小規模宅地等の特例が利用できる別居の子(親族)の要件は、2018年4月1日以降、厳格化されいています(ただし経過措置もあり)。
空き家の3000万円控除で600万円の節税に
空き家の3000万円控除の特例は、国の空き家対策の一環として2016年4月1日から2019年12月31日まで適用される時限措置です。相続により空き家となった実家を譲渡(売却)し、それが一定の要件を満たす場合、譲渡所得(売却益)から3000万円を控除できます。譲渡所得の税率は20%(復興特別所得税を除く)なので、3000万円の控除が利用できればその20%にあたる600万円の節税になります。
なお、空き家は相続財産ですが、名義を相続人に移して相続人の所有となってから売却するため、空き家の3000万円控除の特例は相続税ではなく所得税に関する節税策となります。
●図表1 特例を利用した場合の譲渡所得の計算式
譲渡所得(売却益)=譲渡価額(売却代金)−取得費(*4)−譲渡費用(*5)−特別控除3000万円
*4 取得費(購入にかかった費用)が不明な場合、譲渡価額の5%で計算
*5 空き家の耐震リフォームや取り壊し等、売却のためにかかった費用
控除を受けるための要件は?
空き家の3000万円控除の特例を受けるための主な要件は図表2のとおりです。ポイントとなるのは、対象になる空き家が相続開始の直前まで親が1人暮らしをしていた一戸建てで、旧耐震基準が適用されていた1981年5月31日以前に建築された物件であること。さらに、相続から譲渡(売却)までの間にずっと空き家であったことなどです。実家が残っていても、親が老人ホームなど高齢者施設に住み替えて、相続直前には実家に住んでいなかった場合などは対象外になるので要注意です。
空き家を売却する際には、家屋を耐震リフォームするか(耐震性がある場合には不要)、取り壊して更地にして売却する必要があります。空き家の譲渡価額(売却代金)が1億円以下でないと利用できないことにも注意しましょう。
また、この特例が適用されるのは2019年12月31日までの譲渡です(延長される可能性もあります)。相続開始日による特例利用の可否は図表2に示しました(小規模宅地等の特例を併用する場合には、さらに売却のタイミングについて考慮する必要があります)。
●図表2 空き家の3000万円控除の特例の要件
【適用期間の要件】
相続のあった日から起算して、3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ特例の適用期間である2019年12月31日までに譲渡すること。
相続開始日別、特例を利用するための譲渡の期間
《相続開始日が2015年1月1日以前》
→既に期限が過ぎているので利用不可
《相続開始日が2015年1月2日~2016年1月1日》
→2018年12月31日までの譲渡
《相続開始日が2016年1月2日以降》
→2019年12月31日までの譲渡
【相続した家屋の要件】
・相続開始の直前まで被相続人(親)が1人で住んでいたもの
・1981年5月31日以前に建築された家屋であること(マンションなど区分所有建築物を除く)。
・相続から譲渡までの間、誰かが住んだり、賃貸に出したりしていないこと。
・相続により土地と家屋をセットで取得すること(土地か家屋のいずれかでは不可)。
【譲渡(売却)の際の要件】
・譲渡価額(売却代金)は1億円以下であること。
・家屋を残して譲渡する場合、譲渡時において家屋が現行の耐震基準を満たすように耐震リフォームが完了していること。
空き家を兄弟で分割して相続する場合などの注意点は?
空き家の3000万円控除の特例を受けるには、相続人が土地と家屋をセットで相続する必要があることも重要なポイントとなります。例えば兄弟2人で実家を相続する場合、土地を兄が、家屋を弟がという分け方をすると、特例が受けられなくなるので注意しましょう(図表3)。特例を利用するには、土地と家屋をセットにしたうえで、兄弟で2分の1ずつなどに分ける必要があるのです。なお、3000万円という控除額は空き家の相続人1人当たりの金額です。2人なら合計で6000万円、3人なら9000万円の控除が受けられます。

譲渡価額の要件である1億円以下については、上記のように兄弟など複数の相続人で持ち分を共有している場合、それぞれの持分に応じた譲渡価額で判断するのではなく、空き家物件全体の譲渡価額で判断します。同じ相続人が2回に分けて売却する場合にも、通算して1億円以下になるかどうかで特例の利用の可否を判断します。
なお、空き家の3000万円控除の特例を受ける同じ年に、自身の住まいの売却も考えている人もいらっしゃるでしょう。その場合、空き家の特例と居住用財産の3000万円控除の特例は併用できますが、同一年内の場合、控除額は両者を合算して6000万円までではなく、3000万円までに抑えられてしまうので要注意です。
一方、空き家の3000万円控除の特例と相続財産譲渡時の取得費加算の特例は併用できず、選択制になります。相続財産譲渡時の取得費とは、その相続財産を相続する際にかかった相続税のこと。空き家の相続税が3000万円になることはあまりないでしょうから、一般的には空き家の3000万円控除の特例を利用したほうが有利になると考えられます。
空き家の3000万円控除の特例は適用要件が細かく定められています。加えて小規模宅地等の特例も検討するとなると、事前の対策の有無により特例の利用の可否が分かれる場合もあります。できれば親の生前など、早めに相続専門の税理士に相談することをお勧めします。
取材協力=税理士 山中厚氏
著者:萬 真知子