公式コラムオカネの最前線
長生きリスクに備える「トンチン年金保険」とは
2018.09.03
著者:馬養 雅子
生命保険といえば、かつては亡くなったときに備えるのがの大きな役割だったが、人生100年時代を迎え、今は長生きしたときにお金が足りなくなる“長生きリスク”への備えとしてのニーズが高まっている。その中で新たに登場して注目されているのが“トンチン年金保険”という保険商品だ。
長生きするほどトクする仕組み
トンチン年金保険は、17世紀イタリアの銀行家・ロレンツォ・トンティが考案した「先に亡くなった人の払った保険料を長生きした人に回す」という仕組みを応用したもので、名前はこのトンティに由来する。解約返戻金や死亡保険金を低く抑え、その分を年金原資に回すことで年金額を厚くしてあり、長生きするほど受取総額が増えて“トク”をするという年金保険だ。現在4つの生命保険会社が扱っている。
ある保険会社の商品を見てみよう。
50歳で加入した場合、保険料払込み期間は50歳から69歳まで。その間に解約した場合の解約返戻金や、亡くなった場合の死亡保険金は、払い込んだ保険料を下回り“元本割れ”となる。
70歳から亡くなるまでは、契約時に決められた年金が受け取れる。74歳までに亡くなった場合は、その時点から74歳になるまでの年金相当額の死亡保険金が受け取れるが、75歳以降に亡くなった場合の死亡保険金はない。
50歳でこの保険に年金額60万円で契約して加入すると、毎月の保険料は男性が5万790円、女性が6万2526円。受け取った年金の総額が払い込んだ保険料の総額を超える“損益分岐点”は、男性90歳、女性95歳だ。
厚生労働省が発表した平成29年の簡易生命表によれば、50歳の人の平均余命は男性が82.61歳、女性が88.29歳だから、平均より7~8年長生きしなければ“モト”が取れないことになる。
長生きする自信のある人には向いているが
トンチン年金保険が適しているのは、亡くなったときに遺族にお金を残す必要がない人や、あるいは残すべきお金を他の死亡保険などで手当てできている人。企業年金や個人年金の受給が70歳で終わるの人が、その後の収入源としてトンチン年金保険を利用することも考えられる。ただし、いずれの場合も長生きする自信がなければならない。
リタイア後は、公的年金で不足する生活費などを補うために保有資産を取り崩すことになる。高齢になったり認知症になったりすると預金などを自分で取り崩していくのは難しくなるが、保険商品なら決まった額の年金が自動的に口座に振り込まれるので手間がかからない。トンチン年金保険ならそれが一生涯続くという安心感もある。
とはいえトンチン年金保険の保険料は高いので、現役時代はともかく、リタイア後に毎月保険料を払っていけるかどうかは十分に検討しなければならない。
選択肢はほかにもある
そもそも、死亡保障がいらないのであれば、長生きリスクの備えに保険を使う必要はない。50歳から69歳まで毎月5万円積み立てたら70歳のときには1200万円になるが、“つみたてNISA”でリスクの低い投資信託を積み立てていけば、元本を上回る運用ができる可能性があるし、得られた利益は20年間課税されないというメリットもある。
ほかにも、公的年金の受取りを65歳以降に繰り下げることによって年金額を増やしたり、税制優遇のあるiDeCo(個人型確定拠出年金)を使ったりすることが考えられる。それぞれの手段のメリット・デメリットを確認したうえで、いくつかの方法を組み合わせて長生きリスクに備えるのがよいだろう。
著者:馬養 雅子