公式コラムオカネの最前線
生前贈与のための金融商品
2018.10.01
著者:馬養 雅子
2015年に相続税の基礎控除(非課税枠)がそれまでの6割に縮小された。それによって、1年間に亡くなった人のうち遺族が相続税を負担しなければならないケースの割合がアップしている。全国平均で4%台から8%台に、地価の高い東京国税局管内では、7%から12%に上昇しており、相続税対策が必要な人が増えている。
生前贈与は手間がかかる
相続税対策として取り組みやすいのは「生前贈与」だ。子や孫などに資産を贈与することで相続財産を減らせば、相続税の負担が軽減される。1人の人が1月から12月までの暦年に110万円を超える贈与を受けると、超えた部分に贈与税がかかることから、110万円までの範囲の贈与する「暦年贈与」が一般的だ。110万円の贈与でも、複数回あるいは複数人に行えばまとまった金額を贈与することができる。
贈与は贈与する人(贈与者)と贈与を受ける人(受贈者)との合意が必要で、贈与した事実を証明できなければならない。贈与のたびに贈与者と受贈者が贈与契約書を取り交わし、贈与する資金は受贈者の銀行口座に振り込んで贈与の記録が残るようにするのが望ましい。
こうした手続きを複数回あるいは複数人に行うとなると、意外に手間がかかる。そこで、暦年贈与の手続きを金融機関が代行する商品が登場している。
暦年贈与サービスのある信託、生保、ファンドラップ
その1つが信託銀行が扱っている「暦年贈与信託」だ。契約時に資金を普通預金あるいは金銭信託に預け入れ、贈与する相手を指定しておく。3親等以内であれば複数人指定することが可能だ。そうすると銀行から年に1回贈与依頼書が送られてくるので、契約者は誰にいくら贈与するかを記入して返送する。銀行は受贈者に確認書を送り、贈与を受ける意思を確認して受贈者の口座に贈与の資金を振り込む。贈与する相手や金額は毎年変更できる。
金銭信託は元本保証で、預入最低額は500万円。金銭信託そのものや暦年贈与には手数料はかからない。
暦年贈与ができる生命保険商品もある。契約時に保険料を一括で支払い贈与する相手を指定し、贈与回数も決めておく。それに基づいて指定した相手に毎年一定額の生存給付金が支払われる。ベースとなる保険は終身保険または養老保険で、外貨建てのものもある。
契約時に保険契約関係費など5~6%程度が手数料として差し引かれ、途中解約すると解約返戻金から早期解約控除が差し引かれる。保険料の最低契約金額は300万円あるいは500万円。保険商品なので仕組みはやや複雑だ。
証券会社の中には、ファンドラップで運用している資金の一部を暦年贈与できるサービスの提供を始めたところがある。サービスの申し込みをすると、贈与契約書と贈与意思確認書が年に1回送られてきて、贈与者と受贈者が署名・捺印して証券会社に提出すると、ファンドラップで運用している資産の一部が売却され、受贈者の口座に振り込まれる。
贈与するかしないか、誰にするか、いくらにするかは毎年決められる。贈与する金額は運用残高の一定割合までとなる。サービスの利用には手数料はかからないが、ファンドラップそのものには利用する各ファンドの信託報酬のほかに、運用資産の総額と運用スタイルに応じて0.5~1.7%程度のフィーと、0.35~1.5%程度の投資顧問料・取引等管理手数料がかかる。
総合的な相続税対策の中で生前贈与を考える
これからも暦年贈与サービスのある金融商品が出てくるかもしれないが、商品の利用を検討する前に、そもそも生前贈与の必要があるのかどうかを考えければならない。
生前贈与には暦年贈与のほかに、教育資金の一括贈与や住宅資金贈与など、贈与税の優遇のある制度もあるので、どれを使うのが有効なのかも比較検討する。そのうえで、暦年贈与をするなら、誰に、いくら、何回行うかというプランニングが必要だ。
無計画に生前贈与を行うと、贈与しすぎて老後資金が不足したり、贈与した孫・しない孫の間で相続時にトラブルになったりする可能性もある。
生前贈与は相続税対策全体の中でどう使うかを考えることが大切。そのうえで、暦年贈与できる金融商品を利用するかどうかを考え、利用するのであれば商品内容や手数料をしっかり比較するようにしたい。
著者:馬養 雅子