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外貨建て保険商品にメリットはあるか

2018.11.19

著者:馬養 雅子

 定期預金が満期になったときや退職金を受け取ったときにとき、銀行が勧めてくるのが外貨建て保険商品だ。これはどのようなものなのか。なぜ銀行が勧めてくるのだろうか。

仕組みは複雑

 銀行が販売に力を入れているのは、保険料を一括払いする「一時払い」の終身保険や個人年金保険。円建てのものもあるが、現在は利回りが低いため、米ドル建てや豪(オーストラリア)ドル建てのものが主流だ。
一時払い保険料は100万円以上であることが多い。それが米ドルや豪ドルで運用される。終身保険の場合は契約者が亡くなったときに、支払った保険料と同額かそれを上回る死亡保険金、途中で解約したときに解約返戻金が受け取れる。個人年金の場合は、一定期間運用されたものを年金として受け取る。

 死亡保険金や年金の額は契約時に決められた額が保証されている。ただし、それは外貨ベースでの話。契約時より受取時のほうが円高になっていると、円に戻したとき為替の差損が生じて、受取額が予想より少なくなる可能性がある。いわゆる“為替リスク”があるのだ。
解約返戻金の額は運用状況によって変動するうえ、一定年数以内に解約する場合、契約からの経過年数に応じて解約金額が削減される(早く解約するほど受取額が少なくなる)。
商品によっていろいろなバリエーションがあり、商品性は少しずつ異なるため、簡単に説明するのは難しい。パンフレットを見ても非常に複雑だ。

コストは高い

 外貨建て保険商品は“保険”なので、支払った保険料の一部は保険契約の締結・維持、死亡保障などに対する費用に充てられる。そのため顧客が負担する手数料が高い。商品によっては、保険料を一時払いした時点で数パーセントの手数料が差し引かれるものもある。その場合、100万円の保険料を払い込んでも、外貨で運用される金額は100万円を下回る。
 そのうえ、契約時は円を外貨に換えるのに為替手数料がかかり、死亡保険金や解約返戻金、年金を受け取るときは外貨を円に換えるのに為替手数料がかかる。さらに、死亡保険金、解約返戻金、年金の受取時に1パーセント程度の手数料が差し引かれる。

 以上をまとめると、外貨建て保険商品は仕組みが複雑で、為替のリスクがあり、手数料が高いということになり、顧客にとってメリットのある金融商品とは思えない。それなのになぜ銀行が外貨建て保険商品を勧めてくるかといえば、これを売ることによって銀行に保険会社からの販売手数料が入ってくるからだ。

銀行の目的は手数料

 かつて銀行は集めた預金を企業に融資するのがビジネスだったが、銀行から融資を受ける企業は減っており、融資しても、金利が低い今の状況では銀行が得られる利益は少ない。そこで今、銀行は投資信託や保険商品などを販売することで手数料を稼ぐことに注力している。

 とはいうものの、銀行の顧客はリスクを取りたがらないことが多く、投資信託はなかなか買ってもらえない。それに対して“保険”はなんとなく安心なイメージがある。特に外貨建てのものは、「外貨のほうが金利が高くて有利」というセールストークが通じるので売りやすい。外貨建て保険商品は仕組みが複雑なので、パンフレットを示して一方的に説明されると、顧客はよく理解しないまま契約してしまうのだ。

金融庁が問題視

 実は金融庁が、外貨建て保険商品を“問題あり”としている。その理由は「複雑なパッケージ商品」だから。外貨建て保険商品は定額部分を外国債券、変額部分を投資信託で運用し、それに死亡保険を組み合わせたものだが、外貨で運用したいなら外国債券、預金を上回るリターンを得たいなら投資信託、死亡保障が必要なら保険料の安い掛け捨ての死亡保険を別々に購入すれば、このパッケージ商品と同じ効果が得られるし、そのほうがコストも大幅に安くなる。

 金融庁は「このように比較的単純な商品を個々に提供することで、より低コストでおなじ経済効果を得られる選択肢があるにもかかわらず、顧客に対し、そうした情報提供を行わないまま、商品構成が複雑なパッケージ商品を提供し、高い手数料を徴収するといった行為は、顧客のニーズよりも、製造・販売業者の論理で金融サービスを提供しているのではないかとの見方もできる」と厳しく指摘している(「平成27事務年度金融レポート」より)。

 ここまで言われているのにまだ外貨建て保険商品を勧めてくるとすれば、その銀行は信頼に値しないといえるのではないだろうか。

著者:馬養 雅子