公式コラム事例から検証!相続の落とし穴

8割以上の確率で追徴課税に! 相続税申告後、忘れた頃にやってくる「税務調査」とは?

2018.12.17

著者:萬 真知子

相続財産が億単位なら「税務調査」の心積もりを

被相続人が死亡した翌日から10カ月以内という期限を守り、相続税の申告と納税を済ませた。やれやれ、これで相続税関連の作業は終了と思いきや、忘れた頃にやってくるかもしれないのが税務調査です。相続税の税務調査とは、税務署の調査官が被相続人の生前の生活拠点だった自宅などを訪れ、相続人の話を聞き取りながら申告書の内容に誤りや漏れがないか実地調査すること。調査の結果、実際に誤りや漏れが見つかると、ペナルティとして追徴課税されます。

国税庁の「平成28事務年度における相続税の調査の状況について」(平成29年/2017年11月発表)によると、実地調査が行われた件数は年間1万2116件。このうち申告漏れ等が指摘された件数は9930件ですから、ひとたび調査が入ると8割以上という高い確率で誤りや漏れが見つかり、追徴課税されるという計算になります。申告漏れなどが見つかった財産の金額(申告漏れ課税価格)は1件当たり平均2720万円、気になる追徴税額は1件当たり591万円です。実際の追徴税額はもちろんケースバイケースですが、平均で約600万円となるとかなり重い負担だといえます。

ではどのような場合に税務調査の対象となるのでしょうか。税務署では提出された申告書を様々な観点からチェックし、何らかの申告漏れが見つかりそうな案件を選定します。選定基準の一つが相続財産の規模です。相続財産が一定額以上だと、漏れや誤りなく申告したつもりでも調査対象になる可能性があります。基準は税務署によって異なりますが、財産が億単位であれば調査が入るかもしれないと心積もりをしておいたほうがよさそうです。資産規模のほかにも選定基準があり、被相続人が生前に不動産や有価証券を多く保有していたりすると対象になりやすいといわれています。


相続税の税務調査は相続税の申告期限から3年以内に行うことになっています。目安をいうと、相続税の申告から1年〜1年半後ぐらいに調査に入るのが一般的です。3年以上たっても税務署から連絡が来なければ、まず税務調査はないと考えていいでしょう。

税務調査は1日がかり。午前中の雑談で財産規模の見当をつける

税務調査の流れは図表1のようになります。順に説明しましょう。調査の対象となっても、いきなり調査官が踏み込んでくるわけではありません。事前に税務署から「○月○日に調査に伺いたい」と日程の打診の連絡が来ます。相続税の申告書の作成を税理士に依頼している場合、申告書に「税務代理権限証書」という委任状の書類を添付するため、税務署からの連絡は税理士にいきます。相続人(納税者)の都合により、税務調査の日程は変更することもできます。

税務調査はほぼ1日がかりです。調査官は通常2人1組で、被相続人の自宅など亡くなる前に生活拠点にしていたところを訪れます。午前中は被相続人の人となりや、どんな仕事をしてきたかなどについて、雑談のような雰囲気で相続人に尋ねます。調査官は話の内容から、被相続人が生前どの程度の財産を築けたのか見当をつけるわけです。それと申告書の内容に乖離があれば、午後から実際に調査を行います。調査は夕方まで続きます。1日で終わらなかった場合には、後日再び調査を行います。

申告漏れが最も多い財産は現預金です。なので、預金通帳については被相続人のものはもちろん、相続人のものも確認します。生前の被相続人から相続人へのお金の流れを調べるためです。被相続人から相続人にお金が渡っている場合でも、贈与税を支払うなどきちんとした手続きを経ていれば問題ありません。しかし、相続人の口座にお金が渡っているものの実際の管理は被相続人がしていたという場合には、相続人の名義を借りただけの「名義預金」とされ、実質的な持ち主は被相続人だとみなされます。名義預金は相続財産に加算されるため、名義預金の額の分だけ申告漏れがあったとみなされるのです。

■図表1 税務調査の流れ

税務調査は協力的な態度で臨むとスムーズ

調査官は申告書に財産・債務が全て反映されているのか、隠した財産がありはしないかという視点で調査に臨んでいます。小さな申告漏れも見逃さないのが彼らの仕事だからです。財産というプライベートな部分を調査されるのは抵抗があるかもしれませんが、「協力して全部お見せするようにします」という態度をとったほうが調査はスムーズに進みます。担当の税理士とも相談しながら、過去の預金通帳を揃えておくなどある程度の準備をしておくとよいでしょう。

仮に非協力的な態度をとったところで、調査官には銀行や証券会社などの金融機関で財産を調べる権限があります。隠し立ては不可能なのです。銀行には普通預金の取引の履歴を10年分保管することが法律で義務づけられているので、少なくとも過去10年間のお金の動きは全て補足されます。

とはいえ、調査官に尋ねられても記憶が曖昧なことについては即答する必要はありません。「それは不確かなので、ちゃんと思い出して調べてから後日お答えそます」などと回答するのが適切なようです。調査により相続人も税理士も知らなかった財産が出てくる場合もあります。あやふやなままその場しのぎで答えてしまうと、後から矛盾が出てきたときに説明全体の信頼性が落ちてしまいます。自信を持って言えることだけ回答するのがポイントです。

申告漏れにより本税に延滞税と加算税がプラスされる

調査が終わった段階で、調査官から申告漏れになりそうな問題点や検討材料が伝えられます。最終的な結果は調査から1カ月〜1カ月半で出てきます。調査結果により申告漏れが指摘された場合、それに納得したなら修正申告をすることになります。

修正申告をすると、申告漏れの財産にかかる本税(本来の税金)に加えて、延滞税と加算税が課されます。延滞税は納税が遅れたために発生する利息のようなもので本来は年利14.6%ですが、現在の低金利の状況を踏まえて8.9%に引き下げられています(2018年分)。加算税は申告期限までに適正な申告をしなかった場合などの一種の制裁とし課される税金ですが、相続税の税務調査による修正申告の場合の税率は50万円までは5%、50万円を超える部分は10%となります(過少申告加算税の場合)。

ただし故意に財産を隠していたり、わざと少なく申告していたりなど悪質なケースには税率35%の重加算税が課されます。また税額が4000万円程度に相当する財産を隠すと脱税で起訴されるおそれがあるといわれています。相続税の最高税率は55%ですから、7300万円程度の財産を隠していると起訴されるおそれがあるということになります。

一方、税務署が指摘する申告漏れに納得がいかず修正申告に応じない場合、税務署が相続人に更正処分を行います。更正というのは、税務署が納税者に当初の税額が少ないので不足分を払ってくださいと通知することです。これに従わずに税金を払わないでいると、預貯金などの財産が差し押さえられます。ただ更正は税務署にとっても手間がかかることなので、税務署側は相続人側と話し合い、できるだけ修正申告をするように働き掛けるようです。

税務調査をする前のワンクッション、「書面添付制度」とは?

書面添付制度という税務調査を効率化する手段についても簡単に付け加えておきましょう。これは税務調査が入った場合に問題化しそうな財産について予め税理士が調べ、その内容を記載した書面を相続税の申告書に添付する制度です。

税務署の調査官は書面の内容をチェックした上で、税理士と簡単な意見交換を行います。調査官は「この財産についてこういう観点からも調べましたか?」などと税理士に確認し、やりとりの過程で調査官の疑問が解消すると税務調査をせずに済む場合もあります。税務調査が入ったとしても税理士が調べた点については調査が不要になり、調査を一からやる必要がなくなることもあります。書面添付制度には税務調査に入る前のワンクッションの役割が期待できるのです。

ある日突然、税務調査の連絡が来れば驚き緊張するものですが、税務調査がどんなものなのか、ある程度イメージをつかんでおけば冷静に対処できるはずです。また、税理士の対応の仕方次第で税負担も変わることがあるので、相続の税務調査に強い税理士に依頼することが非常に重要だと言えるでしょう。

取材協力=税理士 鈴木 修三氏

著者:萬 真知子

著者:萬 真知子