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ETFから見えてくる日本の投資家事情

2019.01.07

著者:馬養 雅子

 個人の資産運用に適した金融商品の1つに「ETF」が挙げられる。あまり知られておらず利用も進んでいないが、一部のETFは活発に取引されている。

上場している投資信託

 ETFは日本語で「上場投資信託」という。その名前のとおり、証券取引所に上場している投資信託だ。上場投資信託に対して、広く一般に利用されている投資信託は「非上場投資信託」ということになる。

 ETFは投資信託なので、非上場の投資信託と同じように、多くの投資家から資金を集めて作った“ファンド”を株や債券で運用する。
 各ETFは特定のインデックス(指数)に値動きが連動するように運用される。その点は、インデックスファンドと似ている。違うのは、インデックスファンドの場合、連動する指数を構成する全銘柄をファンドに組み入れているわけではないのに対して、ETFは機関投資家が全銘柄を拠出することでファンドが成り立っている点だ。詳細に見ていくと仕組みは複雑なのだが、一般の投資家は「指数に連動する投資信託で、上場している」ということだけわかっていれば十分だろう。

 東京証券取引所に上場しているETFは現在100銘柄以上ある。中心となるのは、TOPIX(東証株価指数)や日経平均(日経225)に連動するもので、そのほかにJPX日経インデックス400、東証マザーズ指数などの株価指数に連動するものや、電機、銀行、エネルギー、医薬品といった日本の業種別の株価指数、先進国・新興国の株・債券の指数、金・プラチナなど商品の指数に連動するものなど、種類が豊富で、インデックスファンドにはないタイプのものも多い。

 TOPIXや日経平均などに連動するものは、インデックスファンドより運用コストが低い。ただ、どのETFも証券会社を通して株と同じように売買するため、売買手数料がかかる。非上場の投資信託は1日1回基準価格を算出するので、売買の注文を出した時点では価格が確定しないが、ETFは株のように取引所の取引時間中は価格が変動し、指値か成り行きで売買注文を出す。

低コストで長期保有に向くが

 資産運用ではコストが重要だ。コストが高いとその分、運用効率が下がるからだ。ETFは保有コストが低いので、長期保有に適している。例えばTOPIXや日経平均、先進国の株価指数に連動するETFを利用すれば、低コストで幅広い分散投資が可能になる。
 「この業種が成長すると思うが銘柄を絞れない」というときに業種別ETFを買うことも考えられる。債券やREIT(不動産投資信託)の指数に連動するETFの中には年複数回の分配を行うものがあり、分配金目的でのETF保有も考えられる。非上場の投資信託と異なり、ETFは収益のみから分配し元本を取り崩す分配は行わないので安心だ。

 このように、いろいろとメリットのあるETFなのだが、個人投資家が積極的に利用しているという状況ではない。
 大きな理由の1つは、ETFを個人投資家に売っても証券会社の収益は上がらないことから、積極的に販売されていないということがあるだろう。証券会社はこれまで、新しい非上場の投資信託を次々設定して顧客に買い換えさせることで販売手数料を稼いできたが、ETFはそういう販売手法がとれないので顧客に勧めることもない、というわけだ。
 個人投資家も、自分で金融商品を選択できる人は少なく、証券会社や銀行に勧められたものを買うことが多いため、ETFには目が向かない。

投機的なタイプが人気を集めている

 その一方で、非常に活発に売買されているETFがある。「レバレッジ型」や「インバース型」と呼ばれるものだ。レバレッジ型は、対象とする指数の2倍の値動きとなるように運用される。例えば、日経平均が1日に5%値上がりしたら、日経平均のレバレッジ型は10%値上がりするといった具合。インバース型は、対象とする指数と逆の値動きとなるように運用され、ダブルインバース型だと、日経平均が1日に5%値上がりしたら、10%値下がりする。
 いずれもギャンブル性が高く、長期の運用には適さない。しかし、東京証券取引所に上場しているETFの2018年11月の売買高ランキングを見ると、日経平均のレバレッジ型とダブルインバース型が1位と2位を占め、上位20銘柄中10銘柄がレバレッジ型・ダブルインバース型だ。この状況はここ数年続いている。ETFは投機的な取引の手段として使われているのだ。

 本来、ETFは長期投資に適しているのに認知度が低いのは、金融商品を自分で探して選べる人が少ないからだろう。日本の投資家のほとんどは金融機関に勧められた(手数料の高い)ものを買い、一部の人がギャンブル性の高いものを活発に取引する。
 レバレッジ型・インバース型ETFの人気は、日本の個人投資家が成熟しておらず、長期の資産運用が根付いていないこと示しているといえるだろう。

著者:馬養 雅子