公式コラムオカネの最前線
新タイプの“シニア向け投資信託”
2019.06.10
著者:馬養 雅子
日本人の平均寿命が年々延びている中、想定以上に長生きをすることによって生きている間に資産が尽きてしまう“長生きリスク”が懸念されるようになってきている。その対策の一つが資産運用だ。資産の一部を運用して増やせば“資産寿命”を延ばすことが可能になる。
毎月分配型の残高が減少
リタイア後の運用では、毎月分配型ファンド(投資信託)が長らくシニアの人気を集めてきた。だが、高い分配金を出すために大きなリスクをとるファンドが登場し、リスクを理解しないまま購入した投資家が損失を被るケースが生じた。また、毎月一定額の分配金を出すために、本来は運用益を原資として分配すべきところ、ファンドの元本からも分配金を出したためにファンドの資産が減って基準価額が下がるというケースも増えた。
こうしたことから、「毎月分配型ファンドは投資信託を購入する顧客の利益とならない」と金融庁が指摘し、それを受けて金融機関が積極的な販売を控えたことによって、毎月分配型ファンド全体の残高は2015年から減少に転じている。
奇数月分配で年金を補てん
それに代わるように、2018年に新しいタイプの“シニア向け”の投資信託の設定が相次いだ。その特徴の1つが“隔月分配”だ。公的年金は2カ月分が偶数月に支払われるため、年金生活者の場合、奇数月には収入がない。そこで奇数月に分配することで、多少なりとも収入が得られるようになるというわけだ。毎月分配型で奇数月は偶数月の2倍の分配金を出すファンドもある。
もう1つの特徴は、あらかじめ目標分配率あるいは目標分配金額を設定している点。かつての毎月分配型ファンドは運用状況の悪化で分配金額が下がったのをきっかけに大量に解約されることがあったため、先に目標分配金額を示しておくことで投資家に安心してもらおうということだろう。
目標分配額を設定しているファンドは、分配金が運用益だけでまかなえない場合は元本から分配することがあること、それによって基準価額が下がることを注意事項として明示している。また、目標分配率を「基準価格に対して○%」としているファンドは、基準価格が下がると分配金額も下がっていくことを販売用資料等で説明している。
このタイプのファンドを利用する場合は、こうした点を十分に理解しておく必要がある。
定期的な解約で運用を縮小していく
資産寿命を延ばすために投資信託で運用している資産も、いつかは取り崩して使っていくことになる。分配型のファンドなら自動的に分配金が受け取れるので“運用しながら使っていく”というシニアの資産運用に適しているといえる。
ただ、分配回数が多いとファンドの運用効率が下がる。隔月で分配金を受け取ると運用している資産はあまり増えず、“資産寿命”を延ばすことにはつながらない。
また、これらのシニア向け投信の分配金は1万口あたり50円程度のことが多く、100万円購入して得られる分配金は毎回5000円ほど。お小遣い程度にはなるが、老後の生活費に充てるには至らない。だからといって、多額の老後資金を値動きのある投資信託で運用するのは考えものだ。
資産寿命を延ばすために投資信託で運用した資金は、一定額ずつ定期的に解約していくのがよいだろう。一部の金融機関では、「定時定額解約」を扱っている。積立購入の逆で、投資信託を毎月あるいは隔月で一定額ずつ解約していく仕組みだ。解約金額は自分で決めることができる。“運用しながら取り崩す”なら、このサービスを利用するのも一案だ。
投資信託などによる運用は、年齢が上がるとともに縮小してくのが望ましい。定期的に解約していけば、自動的に投資信託の比率を下げていくことができる。75~80歳くらいになったら投資信託をすべて預金に換えて、運用を終わらせることも考えたい。
著者:馬養 雅子