公式コラムオカネの最前線
価格上昇で注目される「金」――投資の心得
2019.10.28
著者:馬養 雅子
資産運用では資産を分散することが重要だ。すでに株や債券を保有しているなら、ポートフォリオに「金」を加えることで、より幅広い分散投資が可能になる。
金は、株や債券のように発行体が破たんして価値がゼロになるということがなく、世界中のどこでも支払手段として使えるのが大きな特徴だ。ただし、株や債券とは異なり、保有していても利子や分配金などのインカムは得られない。金に投資して利益を得るには、安い時に買って高い時に売らなければならない。

複合的な要因で価格が上昇
金は国際的に1トロイオンス(約31グラム)当たりのドル建ての価格で取引されている。米国ニューヨーク市場の金先物価格は2019年8月、約6年ぶりに1500ドルを超えて注目を集めた。日本では、ドル建ての国際価格を1グラム当たりに円換算した価格で取引される。円建ての金価格も長らく4000円台が続いたが、19年7月に5000円を超えてその後も5000円台で推移している。
今回の金価格の上昇には複合的な要因がある。米中貿易摩擦や香港、イランなどの地政学リスクの増大で「安全資産」である金が買われていること。また、7月に米国が利下げに転じたことで世界的に低金利状態となり、金利のつかない金の魅力が相対的に高まったこと。そして、基軸通貨である米ドルへの信認の低下だ。米国は財政赤字と経常赤字の「双子の赤字」を抱えているうえ、トランプ政権の極端な政策で政治・経済の先行きが不透明などことなどから、新興国が外貨準備の一部を米ドルから金へシフトしたり、年金基金などがポートフォリオに金を加えたりしている。
金は世界中に埋蔵されている量が限られているのに対して、中国やインドでは宝飾品としての需要が非常に高いため、金価格は長期的には上昇するといわれている。ただし、価格が上がれば金の売り手も増えるので、一時的に大きく値下がりすることもありうる。金に投資するならまとめて買うのは避け、少額ずつ分散して購入するのが望ましい。また、短期売買で値上がり益をねらうのではなく、インフレに備える、あるいは資産を守るために長期で保有するのがよいだろう。
現物への投資はバーかコイン
金への投資は、金そのものを購入する現物投資のほかに、純金積立、金ETFがある。
現物を買うならバー(地金)か地金型金貨(コイン)になる。バーは重さによって、1kg、500g、300g、200g、100g、50g、20g、10g、5gなどの種類があるが、500g未満のものは売買時にバーチャージという手数料がかかるので、買うなら1kgか500gがよい。そうするとかなりまとまった金額が必要で、買った金の保管方法も考えなければならない。
地金型金貨で現在取引されているのは、オーストリアの「ウィーンハーモニー金貨」とカナダの「メイプルリーフ金貨」など。どちらも1オンス(約31グラム)、1/2オンス、1/4オンス、1/10オンスの4種類がある。サイズが小さいほど売値と買値の差(スプレッド)が大きくなるので、購入するなら1オンスが望ましい。コインは少しずつ購入したり、少しずつ売却したりできる。子や孫などに贈与することも考えられる(ただし贈与税の課税対象となる)。
少額で投資可能な純金積立と金ETF
純金積立は、貴金属商、金属会社のほか、ネット証券会社や一部のネット銀行が扱っている。専用の口座を開設し、毎月一定額で金を買える量だけ買っていく。金価格が高いときは買える量が少なく、価格が安いときはたくさん買えるため、価格変動の影響を受けにくい。毎月の最低積立額は3000円以上あるいは1000円で、1000円単位が一般的だ。積立額に対して1.5~2.5%程度の積立手数料がかかる。積み立てた金は口座のある業者に預ける形になり、いつでも売却して現金化できるほか、現物での引き出しに応じる業者もある。
ETF(上場投資信託)は証券取引所に上場していて、株と同じように証券会社を通じて売買する投資信託だ。価格が金価格と連動するように運用される金ETFは、現在数銘柄が上場しており、1口あたり5000円~1万5000円程度で買える。いずれも、保有期間中にかかる信託報酬(管理運用費用)が0.4~0.5%程度。売買手数料もネット証券会社ならわずかなので、低コストで金に投資できる。長期に保有してもよいし、価格を見ながら機動的に取引することも可能だ。
金ETFは、金に直接投資するものと、金価格に連動する有価証券に投資し金には直接投資しないものがある。後者の場合、有価証券の発行体の破たんリスクがある点に注意したい。
著者:馬養 雅子