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被相続人の預金の一部払い戻し制度がスタート

2019.11.25

著者:馬養 雅子

2018年の民法改正で、相続に関するさまざまな制度の見直しが行われた。その1つが「遺産分割前の預貯金の払い戻し制度」だ。

預金者が亡くなった場合、銀行はその人の預金口座を凍結する。そのため、相続人であっても払い戻しはできなくなり、遺族の当座の生活費や葬儀費用が不足するケースが生じる。そこで、故人の預金の一部が払い戻せる制度が設けられた。その内容を見てみよう。

被相続人の預金の一部が払い戻せる

亡くなった人(被相続人)が遺言書を残していなかった場合、被相続人の遺産をどのように分けるかは相続人が話し合い(遺産分割協議)で決め、その結果を遺産分割協議書に記載する。銀行預金などは相続財産となり、遺産分割が終了するまで払い戻すことができない。銀行が被相続人の預金口座を凍結するのは、相続人の1人が抜け駆けで預金を払い戻して自分のものにしてしまうのを防ぐためだ。

亡くなった直後は、遺族は葬儀などに忙殺されてすぐに遺産分割協議にかかれないことが多い。そうすると、被相続人の預金は払い戻せない。夫の銀行口座から生活費を引き出していたような場合、夫が亡くなると、残された妻は預金が払い戻せず当座の生活費に困るといったことが起こる。葬儀費用や、亡くなるまで入院していた医療機関への支払い、各種税金の納付などに支障をきたすこともありうる。

そこで今回の民法改正で、遺産分割前でも相続人の1人が単独で預金の一部を払い戻すことができる制度が導入され、2019年7月1日から利用できるようになっている。

払い戻せる額に上限

遺産分割協議前に相続人が払い戻せる預金の額は、次の計算式による。

 払い戻し可能額
    =相続開始時の預金の額×1/3×払い戻しを行う相続人の法定相続割合

例えば、相続人が子Aと子Bの2人、預金が720万円だったとする。子A・子Bの法定相続割合はそれぞれ1/2なので、各人が払い戻せる金額は、

 720万円×1/3×1/2=120万円

となる。


ただし、同一の銀行からの払い戻し額は、相続人1人につき150万円が上限となっている。

払い戻した預金は、払い戻した相続人が相続財産として取得したとみなされ、遺産分割の際に調整される。

払い戻しには戸籍謄本が必要

この制度を利用して預金を払い戻すには、以下の書類を銀行に提出する必要がある。

・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本または全部事項証明書
・相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
・預金を払い戻す人の本人確認書類(運転免許証等)、印鑑証明書、実印


預金の一部払い戻し制度はできたものの、実際に払い戻すとなると必要書類が多く、戸籍謄本などを取り寄せるのに時間がかかることもあるので、そう簡単ではない。金額にも上限があり、複数の銀行から払い戻すとすれば、銀行ごとに手続きが必要だ。

信託業務を扱う銀行では、相続が起こったとき、あらかじめ指定しておいた家族が簡単な手続きで資金を引き出せる「遺言代用信託」を扱っている。必要書類は死亡診断書と通帳、印鑑、本人確認書類など。

自分が亡くなったとき、遺産分割前に家族がお金に困らないようにしたいと考えるなら、こうした商品を利用するとよいだろう。

著者:馬養 雅子