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個人向け国債が見直されている

2020.01.14

著者:馬養 雅子

預金はあまりに金利が低くて魅力がないが、かといって値下がりリスクのある金融商品は避けたい、というニーズに応えるのが「個人向け国債」だ。

名前のとおり個人専用の国債で、元本と利息の支払いを国が保証しているので安全性が高く、金利は預金より高め。2003年から発行されているので20年近い歴史があるにもかかわらず、なじみがないという人が多いようだが、最近、静かに注目されている。

3年、5年、10年の3種類

国債は国が発行する債券で、債券とは一種の借用書だと考えればよい。国債を買うということは、国にお金を貸すことであり、貸したお金は期限が来たら返してもらえる。これを「償還」という。債券を買って保有している間は、あらかじめ決められた金利に基づいて利子が受け取れる。

国債は毎月大量に発行されていて、金融機関や年金の運用会社といった機関投資家しか買えないが、個人でも買えるように小口化したのが個人向け国債だ。

個人向け国債も毎月発行されていて、銀行や証券会社が扱っており、1万円単位で買える。償還までの期間が3年、5年、10年の3種類があり、3年ものと5年ものは固定金利、10年ものは変動金利。いずれも半年ごとに利子が支払われる。発行から1年たてばいつでも中途換金が可能で、買ったときの金額が還ってくる。ただし、直近2回分の利子相当額が差し引かれる。

金利は、毎月の債券市場の状況に応じて変わるが、最低でも0.05%が保証されている。マイナス金利が導入された2016年以降は、3年、5年の金利は下限金利の0.05%に張り付いており、10年ものの初回金利も、マイナス金利導入以降はおおむね0.05%だ。

マイナス金利とキャッシュバックで注目度アップ

個人向け国債が注目される理由はおもに3つある。

1つは、預金金利の低下だ。マイナス金利の導入で一般的な銀行では普通預金金利が0.020%から0.001%に、定期預金金利が0.025%から0.01%に下がった。個人向け国債の金利も下がったが、0.05%以下にはならないため、預金に比べて相対的に有利となった。

もう1つは、MMFの償還。証券会社が扱うMMF(マネー・マネージメント・ファンド)は投資信託の一種だが、元本割れリスク極めて小さく、かつ利回りが定期預金金利より高いことが多かったので、減らしたくないお金の運用先として広く利用されていた。だが、マイナス金利の導入によって運用が困難になり、すべての運用会社がMMFを繰上償還した。

そのため、預金より有利で安全性の高い金融商品の選択肢は個人向け国債だけになってしまったといえる。

3つ目が、証券会社のキャンペーン。大手証券会社ではほぼ毎月、個人向け国債の購入額に応じてキャッシュバックを行っている。例えば、最大手証券会社の場合、10年ものと5年ものに関して、購入額100万円以上200万円未満で2000円、200万円以上300万円未満で4000円といった具合。100万円買って2000円のキャッシュバックは利回りにすると0.2%だから、かなりのおトク感がある。

ただし、証券会社がこのような大盤振る舞いをするのは、個人向け国債をきっかけに、新たな顧客を開拓するのが目的であることは知っておきたい。

個人向け国債で「自分年金」

個人向け国債は安全性が高いので、「減らしたくない」お金の運用先として利用できる。例えば、退職金を受け取ったとき、生活費に充てる資金や自宅のリフォーム費用など将来の使い道が決まっているお金は、個人向け国債を利用してプールしておくことが考えられる。その際、使う時期に合わせて、3年もの、5年もの、10年ものを使い分けるとよい。10年ものは変動金利なので、将来的に金利が上昇しても対応できる。

50歳代の人なら、個人向け国債を「自分年金」として使ってはどうだろう。例えば、10年ものを毎年100万円ずつ購入して10年後から毎年100万円を受け取るとか、毎月5万円ずつ購入して10年後から毎月5万円受け取るといったやり方だ。

もちろん、他の年代の人も「減らしたくないが少しでも有利に運用したい」という資金には個人向け国債が適している。ただし、個人向け国債は利子の再投資ができない点には注意が必要だ。

定期預金なら「元利自動継続」にしておけば、満期ごとに受け取った利子が元金に組み入れられ、それを繰り返すことで元金が少しずつ増えていく。しかし、個人向け国債にはそうした仕組みがないため、資金を増やすには、半年ごとに受け取る利子を別の方法で運用しなければならない。

著者:馬養 雅子