公式コラムオカネの最前線
「繰り下げ受給」で年金額が増える
2020.01.27
著者:馬養 雅子
老後2000万円問題が世の中を騒がせ、老後のお金に対する不安をあおった。そんな中、公的年金を増やす方法として注目されているのが「繰り下げ受給」だ。その仕組みと注意点を見ていこう。
繰り上げ受給はデメリットが大きい
公的年金は老齢基礎年金も老齢厚生年金も65歳から受け取るのが基本だが、それより前から受け取り始める「繰り上げ受給」、それより後に受け取り始める「繰り下げ受給」も可能だ。
繰り上げは1カ月単位で、例えば「63歳3カ月から受け取る」といった形でできる。繰り上げられるのは最大で60歳まで。1カ月繰り上げるごとに、年金額は0.5%ずつ減額される。63歳3カ月から受け取ると、65歳から受け取るより10.5%少なくなる。60歳まで繰り上げた場合、年金額は3割減る。
減った年金額は一生涯続くため、60歳から受け取った場合、年金の受取総額は76歳くらいで65歳から受け取った場合の受取総額を下回る。
繰り上げ受給は年金額が減るだけでなく、65歳までの間に高度障害を負っても障害年金が受け取れないなどのデメリットがある。したがって、可能なかぎり避けたほうがよいだろう。

70歳まで繰り下げると年金額が42%アップ
一方、繰り下げ受給は、受取開始を66歳から75歳まで1カ月単位で決めることができ、1カ月繰り下げるごとに0.7%ずつ年金額が増える。例えば、68歳4カ月から受け取り始めると、年金額は65歳から受け取り始めた場合より28%増え、70歳まで繰り下げるとアップ率は42%となる。
増額された年金額は一生涯続くので、老後のお金にゆとりをもたらす。とはいえ、繰り下げして早く亡くなったら、繰り下げないほうがよかったというケースも出てくる。そこで、受取年金総額が65歳受給開始の場合を上回るのはいつかという「損益分岐点」を計算してみると、繰り下げ期間にかかわらず、受給開始から12年弱となる。70歳から受け取り始めたら、82歳より長生きすれば「モトが取れる」ということになる。
繰り下げするのに手続きは不要
老齢基礎年金と老齢厚生年金は両方とも繰り下げることができほか、どちらか一方だけ繰り下げることもでき、繰り下げタイミングをずらすことも可能だ。繰り下げするのに手続きは必要ない。65歳になる3カ月前に年金事務所から送られてくる「年金請求書」を提出しなければ、自動的に繰り下げを選択したことになる。
66歳以降、年金を受け取りたくなったときに年金請求書を提出すれば受給開始となる。したがって、あらかじめ「○歳○カ月まで繰り下げる」と決めておく必要はない。
ちなみに、66歳以降に年金請求書を提出したとき、繰り下げのほかに、未受給の年金を増額なしで一括で受け取ることもできる。
繰り下げ中は加給年金がつかないなどの注意点も
受給を遅らせるだけで年金額が増えるのだから「繰り下げ」のメリットは大きい。ただし、いくつか注意点もある。
・生年月日によっては、65歳より前に「特別支給の老齢厚生年金」が受け取れるが、これは繰り下げはできない。
・厚生年金に20年以上加入した人が65歳になって老齢厚生年金を受け取り始めたとき、65歳未満の配偶者がいると年額約40万円の「加給年金」が加算される。加給年金は配偶者が65歳になるまで受け取れる。しかし、老齢厚生年金を繰り下げすると、受給を開始するまでは加給年金がつかない。加給年金がカットされるのを防ぐには、老齢基礎年金のみ繰り下げることが考えられる。
・繰り下げによって年金額が増えると、その分、税金や社会保険料の負担が増えるので、手取り額は増額分ほどは増えない。
・受給を繰り下げた場合、受取開始までは年金収入がなくなるので、それを何でどう補うかは考える必要がある。例えば、働いて勤労収入を得る、金融資産を取り崩すなど。
現在、繰り下げできるのは70歳までだが、これを75歳までにすることが検討されている。75歳まで繰り下げると年金額は84%増える。また、繰り上げの場合の減額率は0.5%から0.4%に引き下げられる見込みだ。
著者:馬養 雅子