公式コラムオカネの最前線
認知症対応の信託商品
2020.02.25
著者:馬養 雅子
認知症と診断されると預金が引き出せない
高齢化が進むとともに認知症の人が増えている。今後もますます増加すると見込まれ、2025年には65歳以上の約5人に1人になるという推計データもある。
認知症が進むと、自分でお金の管理をするのが難しくなる。また、認知症と診断されると金融機関の預金口座が凍結されて、自分のお金であっても引き出せなくなってしまう。認知症だと、預金者自身の意思で引き出そうとしているかどうかを金融機関が判断できないからだ。
でもそうなると、日常の生活費や医療・介護の費用の支払いに困るという事態も生じる。こうした問題を踏まえて、各信託銀行が認知症に対応できる金融商品を開発している。

代理人が資金を引き出せる信託商品が登場
認知症対応の信託商品は、銀行に一定以上の金額を預け入れて信託財産とし、元本保証の金銭信託で運用する。預入の際、家族などの代理人を指定しておき、預金者本人が認知症になった場合には代理人が医療・介護のため費用や日常の生活費などを引き出せる。相続時に信託財産の受取人を指定できる銀行もある。
三井住友信託銀行の「人生100年応援信託」は、健康な期間は、特殊詐欺などに備えて支払の同意者を指定できる「防犯あんしん機能」と生活費を月1回受け取れる「ねんきん受取機能」が利用できる。認知症になったときや入院したときは、一定額を定期的に受け取ったり、手続き代理人が医療・介護費用や税金・社会保険料の支払いのために資金を引き出したりできる。契約者が亡くなったら、遺産分割協議前でも500万円まで引出可能。
申込み金額は1000万円以上、追加での信託は1回100万円単位。信託設定時の信託報酬は1.1%(上限110万円)。管理報酬は月額5,500円で、手続代理人の業務開始後は8,800円となる。
みずほ信託銀行の「認知症サポート信託」は、認知症の診断書を銀行に提出すると、本人による解約が制限される。代理人が医療費・介護費の請求書や領収書を銀行に提出し、銀行がそれをチェックしたうえで、医療機関・介護施設等に直接支払うか、本人の口座に振り込むのが基本サービスで、臨時費用や高額費用の支払いにも利用できる。公共料金の支払いや日用品の購入などのために定額を定期的に受け取る自動振替サービスは任意で付帯できる。
信託金額は500万円以上で追加信託も可能。信託設定時の信託報酬は1.1%。信託期間中は月額3,300円の管理報酬がかかる。
りそな銀行の「マイトラスト」は、本人の引き出しを制限でき、生活費や少額の医療費などを定額で毎月受け取るサービスと、高額な医療費・介護費を必要なつど受け取るサービスのどちらか、あるいは両方を利用できる。契約時に受取人を決めておけば、相続が起こったとき、口座に残った信託財産を相続時にすぐ受け取れる。
信託金額は1,000万円からで追加入金も可。信託報酬は信託元本2,000万円以下の部分は3.3%、2,000万円超5,000万円の部分は2.2%、5,000万円超の部分は1.1%。それ以外の管理報酬はかからない。
信託財産を使途に制限なく引き出せるのが三菱UFJ信託銀行の「つかえてあんしん信託」だ。契約者の判断能力が低下したり、入院して外出できなくなったりしたとき、あらかじめ決めた代理人がスマートフォンで領収書を撮影して専用アプリで銀行に送って払出請求をすれば資金を引き出せる。代理人以外の家族も閲覧者として入出金の履歴の閲覧・ダウンロードがスマートフォンで可能なため、代理人による不正利用が防止でき、代理人も契約者の資金を適切に使っていることを知ってもらえる。
信託金額は200万円以上。信託設定時の信託報酬は、200万円以上5,000万円以下の部分は1.65%、5,000万円超の部分は1.1%で最低11万円、最高165万円。毎月の管理手数料は480円。
まとまった資金がないと信託財産が尽きることも
このような認知症対応の信託商品を利用すれば、認知症になったときに預金が引き出せず資金不足に陥るといったことを防げる。ただし、利用に当たって考慮すべき点もある。
1つは、認知症になってから相続が起こるまで何年かかるかわからないため、契約者の生前に信託財産が尽きてしまう可能性があることだ。それを避けるには、あらかじめまとまった金額を信託しておく必要がある。途中で追加入金することも可能だが、そのためには別の銀行口座から預金を引き出そうとしても、本人が認知症だと引き出せない。金銭信託は年金の受取口座にできない点もネックだ。
もう1つは手数料。特に毎月かかる費用は信託期間が長くなればなるほど信託財産を目減りさせる。認知症対応の信託商品を利用するときは、サービスの内容と手数料を比較して、納得できるものを選びたい。
*手数料等は2020年2月現在の税込み価格。
著者:馬養 雅子