公式コラム事例から検証!相続の落とし穴

新設の「特別寄与料制度」で 夫の親を介護した妻はどこまで報われる?

2020.03.09

著者:萬 真知子

2019年7月施行の 「特別寄与料制度」とは

妻が夫の親を介護するといったケースはよく耳にする話でしょう。しかし妻がどれだけ献身的に介護をしても、一般的には義理の親の相続人ではないので相続財産をもらうことはできません。それでも夫の親の相続が発生したときに夫が存命であれば、遺産分割の際、夫は妻の貢献分を「寄与分」として考慮した相続財産を受け取れる可能性はあります。あくまで「夫の寄与分」なので妻が直接受け取るわけではありませんが、間接的にでも報いられるといえるでしょう。

しかしもし、夫が義理の親より先に亡くなってしまうと、妻が長年夫の親の介護をしていたという実績があっても、前述のとおり夫の親の相続財産は受け取れません。夫の親の相続発生時に夫のきょうだいが生きていれば、その人たちは相続人なので、介護をした・しないに関わらず財産が受け取れます。夫の親を介護した妻としての立場から見ると、とても不公平で納得できないと思うのではないでしょうか。

この不公平感を是正するために、2018年7月の相続税法改正により創設されたのが「特別寄与料制度」で、2019年7月から施行されています。被相続人の療養看護など(介護など)を「相続人以外の親族」が無償で行った場合に、その親族が相続人に対して金銭の請求をできる制度です。「相続人以外の親族」とは「6親等内の血族と3親等内の姻族」を指しますが、主に夫の親の介護をした妻(1親等の姻族)をイメージしていると考えていいでしょう。夫の親を介護した妻が、夫のきょうだいなどの相続人に特別寄与料として金銭を請求できるようになったわけです。

特別寄与料のハードルは高い

ただし夫の親を介護する妻の立場の人が、「これで長年の介護の苦労が法的にも報われる」と安堵するのは早計です。特別寄与料を認めてもらうには様々な要件を満たす必要があり、これがかなり高いハードルとなっています。

そもそも特別寄与料の前提となっている「寄与分」とは、その人の働きにより被相続人の財産が増えた、あるいは減らさずに済んだ場合に認められるものです。例えば、「介護保険サービスなどの費用をほとんどかけずに、付きっ切りで在宅介護をした場合」などが考えられます。いつでも介護に応じられることも要件なので、基本的には同居していることが前提です。無償も要件なので夫の親から報酬をもらってしまうと特別寄与料は認められなくなります。また、最低1年以上介護を継続したことなども要件となります。

◆特別寄与料が認められるケースとは
*以下を全て満たしていること
(1)介護に費用をかけず、夫の親の財産を減らさなかった
(介護保険サービスなどをほとんど利用せず在宅介護を行った)
(2)いつでも介護に応じられる環境だった(夫の親と同居もしくはそれに準じる場合)
(3)夫の親から報酬を受けなかった
(4)最低1年以上介護を行った

介護保険サービスを利用しての通常の介護でも、介護をする妻にとっては大きな負担となります。しかし通常の介護は扶養義務の範囲内とされ、特別寄与料の対象にはなりません。特別寄与料を請求するために介護保険サービスを利用しないのは本末転倒ですが、夫の親が身内以外の人に介護をしてほしくないと介護保険サービスを拒むようだと、妻が介護を一手に引き受けざるをえなくなる場合もあります。特別寄与料はそのようなケースに対応するものだともいえます。

当然のことながら、夫の親が有料老人ホームなどの高齢者施設に入居している場合なども、たとえ毎日訪問して世話をしたとしても特別寄与料の対象にはなりません。

特別寄与料の計算方法と請求方法は?

何とか要件をクリアして特別寄与料が認められそうな場合、請求額は一般的に次の計算式で算出します。ざっくりいうと、妻が夫の親を介護した日数分の報酬を夫の親の死後に後払いしてもらうというイメージで、それほど高額にはなりません。

請求額=「介護保険における介護報酬基準の定める報酬相当額(A)」×「療養看護日数(B)」×「裁量割合(C)」

(A)は同等の介護保険サービスを看護・介護の資格を有している人が行った場合の1日当たり報酬相当額、(B)は介護をした日数です。これに(C)の裁量割合として0.5~0.8を掛けます。裁量割合を掛けるのはプロが介護をした場合と親族が介護をした場合との調整のためです。わかりやすいように単純化した例を挙げると、報酬相当額=1日当たり5000円、介護日数=900日間、裁量割合を0.7の場合、

請求額=5000円×900日×0.7=315万円となります。

特別寄与料を認めてもらうには介護をした証拠を残しておくことも必須です。「○月○日、○時から○時までこのようなお世話をした」といった詳細な介護日誌を付けておくと認められやすくなります。個人的な生活の記録を記した手帳や日記でも、介護の様子をメモしておけば証拠となります。

遺産分割協議の際に特別寄与料を請求

特別寄与料を請求できる期間は、「相続の開始および相続人を知ったときから6カ月以内」ですが、夫の親が死亡する前に他の相続人(夫のきょうだいなど)が夫の親を施設に入居させてしまい、妻に夫の親の死を知らされないケースも考えられます。そのような場合には「相続開始から1年」が特別寄与料の請求期間になります。一般的には、相続人の間で遺産分割協議が始まったタイミングで相続人に請求することになります。

相続人が請求に応じてくれればよいのですが、もめた場合には家庭裁判所に申し立てをすることになります。申し立ての期限も上記と同様です。なお、特別寄与料制度の施行は昨年7月1日からですが、それ以前から行っている介護でも、相続発生が施行日以降であれば特別寄与料の対象になります。

特別寄与料は認定の要件も計算方法も複雑なので、実際に利用を検討する際には弁護士など専門家に相談することをお勧めします。

お世話をしてくれた息子の妻に財産で報いるには、 生前贈与か遺贈の検討を

特別寄与料は夫の親を介護した妻に報いるための制度。これまでなかっただけに大きな前進だと一定の評価はされています。ただしここまでお話してきたとおり認定要件が厳しく、受け取れる額も限定的です。現在息子の妻の世話になっている舅姑の立場の人が、妻の長年の貢献を評価し、一定の財産で報いてあげたいと考えるなら、生前贈与をするか、遺言を作成して遺贈を活用するのが確実です。遺贈というのは相続人以外の人に財産を遺す場合にとられる手段です。

生前贈与であれば受贈者1人当たり年間110万円まで非課税で贈与ができます。息子夫婦それぞれに贈与するなら年間220万円まで非課税です(ただし息子に贈与した分は相続の際に持ち戻しとなります)。

息子の妻に遺贈をする場合には、判断能力が低下する前に遺言を作成することをお勧めします。その際、他の相続人の遺留分を侵害しないように注意して遺贈する財産の配分を決めましょう。

著者:萬 真知子