公式コラムオカネの最前線
投資信託の定期売却に3つの方法
2020.06.08
著者:馬養 雅子
投資信託を毎月自動的に定額購入していく「定時定額積立」は、はつみたてNISAの登場もあって利用が広がっている。逆に、保有している投資信託を毎月自動的に定額売却していく仕組みもある。さらに定率売却、定口数売却ができる金融機関も出てきている。

運用しながら取り崩し資産寿命を延ばす
資産運用には、資産を形成していくフェーズと、形成した資産を取り崩して使っていくフェーズがある。資産形成時は、投資信託など値動きのある金融商品を定期的に定額で購入していく「ドルコスト平均法」が有効であるとされており、多くの金融機関で投資信託の積立購入が可能だ。投資信託の積立を促進するために、税制優遇のあるつみたてNISAも導入されている。
積み立てた投資信託は一度に全部を売却する必要はなく、必要なときに必要なだけ売却し換金することができる。換金したあとも積立を続けていけば、資産形成を継続できる。
リタイアしたら積み立ては終了し、そこから取り崩しのフェーズに入る。積み立てた投資信託を老後資金として使う場合、まとめて売却して現金や預金にしてしまうと、資産は運用されず、資産寿命が短くなってしまう。それよりも、少しずつ定期的に売却して、公的年金で不足する生活費などに充てるのが望ましい。このやり方なら、取り崩しながらも運用は継続されるので、資産寿命を延ばすことにつながる。
だが、投資信託の売却の手続きを毎月するのは面倒だ。そこで、金融機関の中には、一度手続きすれば自動的に売却・換金ができる仕組みを設けているところがある。その際、これまでは、毎月一定額を売却する「定額売却」しかなかったが、最近は「定率売却」や「定口数売却」を導入する証券会社が出てきている。それぞれの手法と、メリット・デメリットを見てみよう。
3つの方法のメリット・デメリット
・定額解約
「毎月〇万円ずつ」という形で、毎月一定額を売却する方法。
受け取れる金額が決まっているので、計画的にお金を使うことができるのがメリットだ。だが、売却金額が一定だと、基準価額が低いときは多くの口数を解約することになり、その後に基準価額が上がっても、資産全体の増え方が抑えられることになってしまう。積立・定額購入では、価額が下がったときに多くの口数を買えるという「ドルコスト平均法」のメリットが、定額売却では逆に働くことになって不利なのだ。
特に、取り崩し始めてから早い段階で基準価額が大きく下がると、投資信託の保有口数が大きく減り、資産寿命が短くなってしまう。また、基準価額が低い状態が長引くと取り崩しのペースが速まり、想定していた時期より前に投資信託の残高がなくなってしまうこともありうる。
・定率解約
「保有残高の〇%ずつ」という形で、毎月一定比率で売却する方法。
基準価額が下がれば換金額も減るので、安い時に多く売るという定額売却のデメリットが回避でき、資産寿命を延ばすことにつながる。だが、毎月の換金額は、換金時の基準価額によって変動する。また、取り崩しにともなって保有残高はだんだん減るので、換金額も減っていく。取り崩しが進むと換金額は少なくなってしまい、老後の生活費に充てるには使いづらい。
・定口数解約
「保有残高の〇口相当額」という形で、毎月一定口数を売却する方法。取り崩し開始時の口数を毎月換金する口数で割れば、資産が尽きるまでのおおよその月数が計算できる。先に受取期間を決め、保有口数を最終受取年月までの月数で割った口数を自動的に売却する証券会社もある。
この方法も、安いときに多く売ることは避けられるが、毎月の換金額は変動する。換金額の変動をできるだけ小さくするなら、値動きの大きい株式のアクティブファンドより、値動きが比較的抑えられる債券ファンドやバランス型ファンドのほうが向いている。
資金の使途などで使い分ける
定額売却は換金額が一定でわかりやすいが、資産寿命が短くなってしまう可能性がある。
定率売却と定口数売却は資産寿命を延ばすことにつながるが、毎月の換金額が変動するので、換金額の変動や減少を預金などで補うことも必要になる。
現在、一部の金融機関が定額売却に対応している。定率売却、定口数売却ができる金融機関はまだ少ないが、今後は増えてくると見込まれる。毎月だけでなく、公的年金の振り込みのない奇数月に売却する「隔月売却」ができる金融機関も増えるかもしれない。
換金手法が選べるようになったら、投資信託のタイプや売却資金の利用目的によって、定額、定率、定口数を使い分けるとよいだろう。
著者:馬養 雅子