公式コラムオカネの最前線

設定相次ぐレバレッジ・バランス型ファンド

2020.07.27

著者:馬養 雅子

2018年後半にレバレッジ・バランス型ファンドという新しいタイプの投資信託が登場して人気を集め、その後、同タイプのファンドが相次いで新規設定されている。

レバレッジをかけて「増やすために分散」

バランス型ファンドというのは、株と債券の両方に投資するタイプのファンドで、相対的に値動きの大きな株と、値動きの小さい債券を組み合わせることによって、ファンドそのものの値動きを抑える仕組みになっている。株と債券に加えて、リート(不動産投資信託)を組み入れたものもある。

バランス型ファンドは1本保有するだけで幅広く分散投資ができるので、資産運用のコアになる金融商品だ。ただ、分散投資で値下がりを抑える分、値上がりも抑えられる。そこに登場したのが、レバレッジ・バランス型ファンドだ。先駆けとなったのは「グローバル財産3倍3分法ファンド」。2018年11月に日興アセットマネジメントが設定し運用している。

「3分法」というのは、日本・先進国・新興国の株と、先進国の債券、日本・先進国のリートという3タイプの資産に投資することを意味する。ここまでは従来のバランス型ファンドと変わらないが、新しいのは日本株と先進国債券については先物に投資ししてレバレッジをかけることだ。基本の資産配分は株20%、リート13.3%、債券66.7%なのだが、レバレッジによって株60%、リート40%、債券200%と、資産を「3倍」の割合で運用することになる。

レバレッジをかけると、株が値上がりしたとき、レバレッジがない場合より大きなリターンが得られる。株が値下がりすると通常より大きな損失を被るが、一般的に債券は株とは逆の値動きをするので、債券が大きく値上がりすることによってファンドの基準価格の下落が抑えられる。
通常のバランス型ファンドはリスクを抑えるために分散投資しているが、このファンドは「増やすために分散する」というのがコンセプトだ。

株に投資するファンドと同程度の値動きはあるが、とったリスクに対する期待リターンが高いことから人気を集め、20年6月末時点で年1回決算型と隔月決算型を合わせた純資産残高が6000万円弱にのぼる大ヒット商品となっている。

類似のファンドが次々に登場

人気商品が出ると、他の運用会社も次々と同じようなファンドを作って追随するのが日本の投信業界だ。レバレッジ・バランス型ファンドも、昨年秋から年末にかけて、新規設定が相次いだ。
とはいえ、ファンドによって資産配分やレバレッジのかけ方はさまざまだ。多いのは、米国の資産(株・債券・リート)のみに投資するタイプ。また、金を投資対象に加えたものや、米国株の代わりに米国のハイイールド債に投資するものなどがある。各資産の運用比率を固定せず、その時々の経済状況に合わせて組み替えるものもある。

新型コロナ禍で大暴落したが

レバレッジ・バランス型のファンドの多くが19年の10月~12月に設定された。当初は日米の株高でどのファンドも基準価格が上がったが、設定から半年たたないうちに新型コロナショックに見舞われ、20年3月にほぼすべてのファンドの基準価額が暴落した。「グローバル財産3倍3分法ファンド」も下落率が1カs月で約37%に達するなど、レバレッジ型は、レバレッジのないバランス型よりも下落率が大きかった。
これは、ミドルリスク・ミドルリターンのはずのリートの価格が株以上に下落したことや、債券価格も下がったために株・リートの下落を抑える機能を果たせなかったことなどが要因だ。

ただし下落は一時的なもので、米国の株価や金価格の上昇によって、ほとんどのレバレッジ・バランス型は6月末時点で基準価額が設定時の1万円を上回るまでに回復している。ファンドを保有している個人投資家が「レバレッジ型は株と同程度の値動きがある」ということを理解していたためか、「グローバル財産3倍3分法ファンド」は暴落時に大量に売却されるということはなかった。他のファンドの売却もそれほど多くなかったようだ。

今後の運用に注目

レバレッジ・バランス型の「増やすための分散」は有効であり、長期投資に適しているという意見はあるが、ファンドの数が増えて選びにくくなったといえる。
どの運用会社も、各資産の過去のデータを用いて計算し、期待リターンを高める資産配分やレバレッジのかけ方を決めているが、そのうちのどれが有効なのかを個人投資家が判断するのは難しい。仕組みが複雑でわかりにくいものもある。

レバレッジの倍率は今のところ3倍がほとんどだが、5倍、あるいは5.5倍のものもある。差別化を図るために、今後さらに高倍率のものが出てくるかもしれない。倍率が高ければ、その分、リスクは高くなる。

コストに着目すると、「グローバル財産3倍3分法ファンド」は投資対象がインデックスファンドであるため、ファンドの信託報酬が0.5%を下回っているが、その後に設定されたレバレッジ・バランス型には、1.5%を超えるものがある。コストの高いファンドは、長期投資には適さない。

いずれにしても、ファンドの運用のよしあしは、設定から3年程度たたないと評価できない。多くのファンドが当面の新型コロナショックは乗り越えたが、第2波、第3波が来たときどうなるかはわからず、経済の状況によっては各ファンドの運用成績に差が出てくるかもしれない。レバレッジ・バランス型ファンドの購入は、それを見極めてからでもよいだろう。

著者:馬養 雅子