公式コラム事例から検証!相続の落とし穴

相続税の申告期限は10カ月以内 超過したらペナルティあり

2016.11.30

著者:萬 真知子

親の死後、遺産分割で兄弟が揉めて、相続から“争続”へと発展。相続税の申告・納付の期限である10カ月を過ぎてしまった――。こういうケースはそう珍しくはありません。そこで今回は、相続発生から申告・納付までにやるべきことをおさらいしつつ、10カ月を超過した場合のペナルティはどれくらいなのか、見ていきましょう。

申告・納付までのスケジュールをおさらい

相続に関する手続きには期限が設けられています。期限を守らないと節税効果が大きい特例が受けられなくなったり、場合によってはペナルティが課されて税金が重くなったりすることがあるので、必ず期限までに手続きをするのが原則です。「しまった!」ということがないように、まずは相続発生から相続税の申告・納付までのスケジュールを確認しておきましょう。

相続のスケジュール

相続発生から3カ月以内にしなければならないのが「相続放棄・限定承認」の手続き。相続放棄というのは財産と負債のいずれも相続しないこと。財産より負債のほうが多い場合にこれを検討することになります。限定承認は財産の額を責任の上限として負債も引き継ぐ方法です。相続放棄・限定承認は3カ月以内に家庭裁判所に申述という手続きをしますが、何も手続きをしなければ、「単純承認」といって財産も負債も引き継ぐことになります。要は相続をするかしないかを3カ月以内に決める必要があるわけです。その判断をするためにも、遺産の内容やそれぞれの評価額、誰が相続人であるかなどを確定しておく必要があります。

次に相続発生から4カ月以内に「準確定申告」をします。準確定申告とは被相続人(故人)の確定申告。1月1日から死亡した日までに確定した故人の所得と税額を計算して、相続人が連署で故人の住所地を管轄する税務署に提出し、納税します。

並行して相続人全員で、相続財産をどう分けるのか遺産分割協議を行います。遺言書がある場合はその内容に沿って分割することが優先されますが、相続人全員が合意すれば遺言とは異なる分割もできます。どう分割するのかまとまったら「遺産分割協議書」を作成します。そのうえで相続人それぞれが、自分が引き継いだ財産に応じた相続税額を計算して、被相続人の住所地を管轄する税務署に申告・納付を行います。期限は相続発生から10カ月以内。死亡した日が11月1日だとすると、相続税の申告・納付期限は翌年の9月1日となります。期限の日が土曜日や日曜日、祝日などに当たる場合は、その翌日が期限となります。

遺産分割協議で揉めても申告期限は10カ月以内

ただし、遺産分割協議は必ずしもすんなり進むとは限りません。事例1のように相続人同士が揉めてしまい、分け方がなかなか決まらないケースもあります。だからといって相続税の申告期限を延ばしてもらうことはできません。申告・納付の期限はどんなケースでも10カ月以内です。

遺産分割協議がまとまらなければ、相続人が法定相続分で分割したと仮定して、申告・納税をします。ただし、この場合、配偶者の税額軽減の特例や小規模宅地等の特例が受けられなくなるので要注意です。

配偶者の税額軽減の特例とは、配偶者が相続する財産が1億6000万円か、配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額まで相続税はかからないというもの。小規模宅地等の特例は、要件を満たせば、被相続人等の自宅や事業用の宅地について評価額を最大80%減額できます。いずれも相続税を大幅に軽減する効果があるので、要件を満たしていれば必ず利用したい特例。けれども要件を満たしていても遺産分割協議が成立していないときには受けられないため、相続税を余分に納める必要があります。そのため相続人同士が揉めていても、特例を受けるために期限内に何とか遺産分割協議をまとめようと考え直すケースもままあります。

申告期限後3年以内に分割すれば特例が利用できる

ただし救済策も。遺産分割が決まらなくて特例を受けられない場合には、相続税の申告の際に『申告期限後3年以内の分割見込書』を添付して提出しましょう。こうすると相続税の申告期限から3年以内に遺産分割を行えば特例が適用され、余分に納めていた税金が戻ってきます。手続きとしては、分割が行われた日の翌日から4カ月以内に税務署に「更正の請求」をします(更正の請求とは余分が税金を還付してもらう手続き)。

しかし、相続税の申告期限から3年たってもまだ遺産分割の話し合いがつかず、相続人間で訴えを起こしているというケースも考えられます。こうした“一定のやむを得ない事情”がある場合は、申告期限後3年を経過する日の翌日から2カ月を経過する日までに「遺産が未分割であることについてやむを得ない事情がある旨の承認申請書」を税務署に提出します。承認が得られれば、判決の確定の日など一定の日の翌日から4カ月以内に遺産分割が行うことで、先の2つの特例が受けられます。この場合も分割が行われた日の翌日から4カ月以内に更正の請求をして、余分に納めた税金を取り戻します。

分割後、税金が増えてしまったら?

遺産分割協議の内容によっては、実際の相続税額が、法定相続分で分割したと仮定して申告・納付した税額より増えてしまうこともあるでしょう。その場合は『修正申告』が必要です。修正申告とは、納めた税金が少なすぎた場合や還付された税金が多すぎた場合にそれを修正する手続きです。

修正申告をすると、不足分の税金に加えて延滞税がかかります。延滞税は2016年の場合、法定納期限から2カ月以内は年2.8%、2カ月以降は年9.1%となっています。また「過少申告加算税」というペナルティも課されます。過少申告加算税の額は、不足分の税金の10%相当額となります。ただし、税務署の調査を受ける前に自主的に修正申告をした場合には、過少申告加算税は不要です。

10カ月の期限を守らず放置するとペナルティが

遺産分割協議が揉めた末、万一10カ月の期限内に相続税の申告・納付をしなかった場合は、無申告となり、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課されます。ただし、申告期限を過ぎた後でも自主的に申告書を提出した場合はペナルティが軽減されます。

まず、期限後に税務署の調査を受けてから申告書を提出した場合は、無申告加算税は納付税額に応じて15%か20%(50万円以下の部分は15%、50万円超の部分は20%)と重くなります。延滞税は修正申告の場合と同様です。

一方、期限後に自主的に申告書を提出した場合、無申告加算税は税額の5%に軽減されます。申告期限から2週間以内に申告書を提出した場合は、無申告加算税は不要です。延滞税は修正申告のケースと同様です。

相続税の申告・納付は10カ月の期限を守るのが大原則ですが、仮に過ぎてしまっても放置せず、税務署の調査を受ける前にできるだけ迅速に申告・納付を行いましょう。

取材協力=税理士 内藤克氏

著者:萬 真知子